2018-01-01から1年間の記事一覧

人体実験の哲学

先月に触れたシャマユーの博士論文 ふだんの生活で意識することはあまりないけれど、私たちが享受している医療の進歩の影には、人体実験に供された多数の人々がいる。本人が納得しているならまだましだが、必ずしもそうとは限らない。本書は、そのような医学…

{book]植物は未来を知っている

正直なところ、私は植物への関心の薄い人間で、私の母は花好きでいろいろなことを教えてくれたのだが、さっぱり頭に残っていないほどだった。 本書を読んだのもたまたまなのだが、読み始めて興奮した。とにかく面白いのである。植物の持つ様々な能力が、美し…

インビジブル・ゲスト

最近は忙しくて映画館に行くことはむろん、DVDを自宅で見ることもなかなかできないが、やっと時間を作ってミステリー映画をひさしぶりに見た。これは当たりだった。密室に愛人の女性の死体と二人きりでいるところを発見された男性。彼は犯人なのか?何者…

VRは脳をどう変えるか?

著者はVR研究の第一人者で、フェイスブックのザッカーバーグも著者の研究室を訪れてVRシステムを体験した。私は実際に本格的なVRシステムを自ら体験したことはないが、本書を読むだけで、それがいかに臨場感があり、有効(危険な任務のシミュレーショ…

[book}ドローンの哲学

著者はフランス人で、原題は「ドローンの理論」。ここで言うドローンは、観光地の撮影といった牧歌的な用途のものではなく、軍隊が敵国で殺傷を行うために飛ばす兵器としてのドローンである。そうした兵器を使うことには倫理上どんな問題があるのかという厳…

イギリス人はおかしい

映画監督リドリー・スコットの家でハウスキーパーを務めていた著者が、スコット家での経験や、その他イギリスで感じたこと、考えたことをまとめたエッセイ。 著者は割とぶっとんだ経験の持ち主で、姫路生まれ、調理師となり、料理修業のためヨーロッパに渡る…

book[世界一幸せな子どもに親がしていること]

著者2人はそれぞれ米英出身の女性だが、結婚してオランダに住み、2人の子の母となった。ユニセフの2013年の調査では、オランダの子どもたちが最も、そして突出して、幸福を感じていたのだという。しかしオランダでの子育ては、彼女たちには驚きの連続だっ…

歴史と統計学

著者の竹内啓氏は日本を代表する著名な知識人の一人だから、もはや説明の必要はないのかもしれない。若くして大著『数理統計学』を表し、東大経済学部教授を務めた。80年代に岩波書店から『無邪気で危険なエリートたち』『情報革命時代の経済学』を出版、こ…

一昨日と昨日は、筑波大学大学院で集中講義「比較情報社会」を行ってきました。17名の履修者のうち、過半が中国人留学生だったのですが、彼らがみな一番後ろに座り、授業中何も発言してくれないのでがっかりしました。数が多くて互いに牽制しているのか、…

生ける屍の結末

「黒子のバスケ」脅迫事件(「黒子のバスケ」の連載中止や関連イベントの中止を求めて、掲示板での脅迫や、上智大学での毒ガス発生や、食品への毒物混入)の犯人が自ら書いた手記。一読して分かる通り、相当な性格の歪みもあるけれど、検事が漏らしたとおり…

スノーデン

オリエンタルラジオさんにささげる スノーデンあっちゃんいつものやったげて おお聞きたいか俺のスノーデン そのすごいスノーデンを言ったげて 奴の伝説ベストテンアメリカはノースカロライナ生まれ 両親ともに公務員 スノーデンスノーデン スノーデンデンデ…

終わらない「失われた20年」

きたたんこと北田暁大・東大教授による時評集だが、何と言っても読みどころは上野千鶴子氏の文章を徹底批判した第1章「脱成長派は優し気な仮面をかぶったトランピアンである」だと思う。元となった上野千鶴子氏の新聞記事は話題になったので私も読んだが、…

特権キャリア警察官

副題は「日本を支配する600人の野望」。キャリア警察官の「出世」について詳述してある。特に第2章、山口敬之・元 TBSワシントン支局長によるレイプ事件をもみ消した中村格について詳しく書かれているところは必読である。中村はそれだけでなく、同じT…

ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと

随分と長いタイトル!タイトル通り、人類学者の著者が、ボルネオのプナン族のもとでフィールドワークをして考えたことがエッセイ風に記されている。 このプナン族、日本人というか、先進国の人々とは考え方が大きく違う。まず「反省」ということをしないし、…

はじめての沖縄

「はじめての沖縄」といえば岸教授のこの本。便利なガイドブックでは全くなく、むしろ沖縄に向き合うわれわれの姿勢を問題にしている。 私が行っている地域情報化政策に関する調査は、個人と向き合うというよりは自治体を対象とするものだが、それでも「どの…

はじめての沖縄

先週は火曜、水曜、木曜と3日間の有給休暇をとって、息子と娘を「はじめての沖縄」に連れていった。小さい子たちを一度、海に入れたかったということもある。私自身は取材で十回近く沖縄に行っているが、純粋な観光旅行は、大学時代以来、約30年振りとい…

政治を科学することは可能か

河野勝・早稲田大学教授の論文集。なぜ安倍内閣の支持率は何度も復活するのか、東日本大震災の被災者にどのような態度を取るのが正しいのかといった思索が展開されるが、もっとも興味深かったのは、憲法を扱った第九章「なぜ憲法か」だ。憲法と民主主義との…

ジェイン・オースティンに学ぶゲーム理論

ジェイン・オースティンの小説からゲーム理論を解説する異色の理論書。ゲーム理論といっても、おなじみの「利得行列」は第2章に数枚出てくるだけだし、登場人物の行動を戦略という点から読み解く色彩が強い。立場の強い人間は、相手の気持ちに注意を払わな…

マダムと女房

買っておいておいたのだがなかなか見る機会がなく、今日になって学生たちと一緒に視聴した。有名な、日本初のトーキー作品。こんなマンガチックな、ユーモラスな作品だったのか。トーキーの特徴を生かし、さまざまな音があふれている。主人公の作家はちょっ…

ダークスター

懐かしい感じのする宇宙船もの。宇宙船や爆弾が知能を持っているところから、人工知能の先取りと言えなくもないが・・・爆発しようとする爆弾を、哲学(現象学)を使って説得するところなど、面白い。

養子縁組の社会学

東京大学に提出された博士論文(を加筆訂正したもの)。日本人にとって血縁がどんな意味を持つのかという問題を、養子をとった親、ならびに、養子自身へのインタビューから明らかにしようとするものだが、問題の複雑さが見えたというところで終わっている。…

プラットフォーム革命

プラットフォームを築き上げて成功した企業の紹介が主。中でも、アリババが中国でいかにイーベイ等のライバルを蹴落としたの説明は興味深かった。

質的研究のための理論入門

邦題通り、質的研究のための各種の理論をやさしく解説する。原書は2005年刊行だが古さは感じない。「シンボリック相互作用論」「解釈学」に始まり「ポスト構造主義」「ポストコロニアリズム」まで。ギデンズとブルデューを論じた第11章「構造化と実践…

地図で楽しむすごい北海道

タイトル通りなのだが、地図好き、地理好きには大いに楽しめる。第1章では地形、第2章は歴史、第3章は交通、第4章は産業がテーマ。南茅部から出た土偶を「茅空」と呼んでいるとは知らなんだ。所得ベスト1が猿払村というのも意外。

エンドレスエイトの驚愕

人気アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」で、ほとんど同じ内容を8回に渡って放送し、賛否(というかほとんど否)を呼び起こした「エンドレスエイト」。私はこのことを知らなかったくらいだが、著者の三浦俊彦氏は、分析哲学という鋭利な武器を使って、この「エンド…

史上最悪の英語政策

英語でべらべらしゃべるのがカッコイイという軽薄な思いから英語入試を変えようとする不勉強な政治家たちと、それに追従する(せざるを得ない?)文部省、そして、審議会で暗躍する英語試験業界関係者たち。著者の阿部公彦・東大准教授が言うように、この改…

自動人形の城

クリオ城のルーディメント王子は勉強嫌いで、邪悪な魔法使いに唆されて呪いの言葉を発し、家庭教師のパウリーノを黒猫に、他の召使たちを人形に代えられてしまう。召使たちは命令に従うことはできるものの、人間の意図を推し量ることはできない。そこへ、王…

雨かんむり漢字読本

著者は元・辞書編集者だが中国古典に造詣が深く、本書でも、「霧」のところで出てくる張楷(五里霧を操る)と裴優(三里霧を操る)の対立や、地方長官として蓄財に励んだために妻に去られた荅子の話など、いろいろと面白い。

日本史の謎は地政学で解ける

タイトル通り、地政学を応用して日本史を読み解くものだが、特に、気候の温暖化・寒冷化現象が、西国と東国の力関係に影響したというのが興味深い(温暖化は現在だけの話ではない)。ところどころ偏見混じりではないかと感じる部分もあるが・・・。例えば、…

日本の無戸籍者

タイトルが示す通り、日本において無戸籍の人が被る問題とその原因、そして戸籍とは何か、なぜ戸籍で差別が起きるのか、それから、蓮舫氏で話題になった多重国籍や重婚の問題まで、幅広く論じられている。特に印象に残るのは、樺太から引き揚げてきた人の苦…