2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

映画にしくまれたカミの見えざる手

映画産業の一般論に類するところはほとんど常識の範囲内だが、第3章以降の、地域振興に映画ロケなどを利用する話の細部にはいろいろと知らなかったことがあり、有益だった。

「正義」について論じます

前半は、朝日カルチャーセンターで行われた、大澤真幸と宮台真司の対談で、いま大人気のサンデルや、沖縄の普天間基地移設問題、大きな国家の不可能性から「小さい国家と大きな社会」の不可避性などが、論じられている。後半は、宮台氏の「ミメーシス」(感…

バーチャルリアリティ学

日本バーチャルリアリティ学会が編集した概説書。技術についての話が中心だが、概念や応用、社会的影響などについても記述がある(そういえば、本書ではconvergenceの訳語は「輻輳」となっている)。特に、ヒトの感覚や、インタフェース、テレイグジスタンス…

映像が語る「地方の時代」

長洲一二(懐かしい名前だ)の「地方の時代」という提言に呼応して、1980年に創設された「地方の時代」映画祭の30年の歩みを振り返った著作。実際にそれに関わった人々の証言が中心。一つ不満なのは、2002年の一度途絶えた理由について書かれてい…

選択の科学

選択に関するコロンビア大学での講義をまとめたもので、平易な語り口ながら、内容は充実している。著者はインド系の女性心理学者。 第一章では、社長の方が下っ端より長生きする可能性が高いなど、「選択」を有していることの有利さが示唆される研究結果など…

美術×映像

敬愛する映像作家、松本俊夫氏の編著。冒頭の4編は対談で、相手は建畠晢、森村泰昌、束芋、岩井俊夫。特に岩井氏の発言が興味深かった。TENORI−ON欲しいけど、アマゾンでも10万円を超えている。 中盤は、松本氏が企画したオムニバス映画『見るということ』…

撮る自由

こちらは写真家が書いた肖像権(およびプライバシー権)の本。タイトルからも分かるように、写真家が写真を撮る権利を広く認めよ、という主張が貫かれている。1962年の著作権法改正案(肖像写真の利用について、被撮影者の許諾が必要とした部分)を潰し…

肖像権

「第一人者による決定版解説」とあるので読んでみたが、本当にそうなら、若手研究者にとっては肖像権は草刈り場かもしれない。いろいろと突っ込みどころがあるからである。著者は元文部官僚で、天下り(?)して久留米大学教授を務めた人物。肖像権の自立性…

映画というテクノロジー経験

長谷正人・早稲田大学教授による映画論集。リュミエール、マキノ雅弘、宮崎駿、グリフィス、小津などを、「専門家として滑らかに語ることを」拒絶して論ずる(ここで専門家とされているのは、例えばショットの一つ一つを丁寧に論ずる蓮實重彦のような人であ…

親は知らない

少年少女の生活は、ケータイおよびネットによって親世代には想像もつかないほど変容しつつある。本書は中でも特にその影の面に焦点を当てており、ややセンセーショナリズムに流れるきらいはあるけれど、各所で深刻な問題が巻き起こされていることが分かる。…

本当は謎がない「古代史」

八幡和郎氏の著作。明快に割り切るところが、分かりやすくもあり、そこまで言い切っていいのか不安も感じさせる。特に「魏志倭人伝」を信用性が低い著作とし、邪馬台国のこともいわば「どうでもいい地方王国」との扱い(笑)。

山手線と東海道新幹線はどちらが儲かっているのか?

ビジネスの観点から見たJR(および鉄道)論。タイトルで示された問題を追求した第一章を手始めに、豪華寝台列車の採算を論じた第二章、車両の使いまわしを論じた第三章、そして第四章と第五章では各種の割引切符を発行する意図を論ずる。JR西日本とJR…

「権力」に操られる検察

三井環氏による、検察の悪の部分の告発。「鈴木宗男事件」「日歯連事件」「朝鮮総連事件」「小沢一郎事件」「郵便不正事件」の5つについて、事件の構図と、検察と政治権力との裏取引を明らかにする。かえすがえすも、透明性のない組織は腐っていくものだ。

文化の実践、文化の研究

2003年に早稲田大学で行われた「カルチュラル・タイフーン」から生まれた論文集。各論者が多様な文化を対象としている。 一つ気になったのは、飯田由美子氏による論文で、途中でハイデガーを論じているのだが、参考文献に一つもハイデガーの著書が出てこ…

デフレの正体

日本政策投資銀行勤務の著者が、各所で行ってきた講演の内容をまとめたもの(著者紹介に、約3200の合併前の市町村の99.9%を訪問したとあるのはすごい。私も計算してみようかな)。日本のような失業率が低い経済においては、生産性よりも「生産年齢…

殺して忘れる社会

武田徹氏の本には失望することが多い。一言で言えば勉強不足なのだ。本書は、産経新聞に掲載されたコラムをまとめたもので、一つ一つの文章の長さに制約があることは分かるが、いずれについても突っ込み不足で、不満が残ること甚しい。 タイトルは、流行のト…

3D立体映像表現の基礎

3D映像について基本的なところが学べる。著者はいずれも若手・中堅の研究者。巻末の用語集も充実している。ところで、本書ではconvergenceの訳語を輻湊としているのだが、これはいわゆる「輻輳」とは別なのだろうか?

未来型サバイバル音楽論

音楽プロデューサーの牧村憲一氏と、ジャーナリスト津田大介氏との対談。インターネット時代の音楽(ビジネス)の可能性が話題の中心。フランスの小さな音楽出版社「サラヴァ」を理想として、牧村氏が音楽レーベルを立ち上げた思い出話が興味深かった。細野…

ネットテレビの衝撃

「明日のテレビ」と同じく、情報通信総合研究所の志村一隆氏の著作で、こちらもやはり米国のテレビ事情の紹介が中心。今年の3月にFCCが、放送局から120MHz分の周波数を返還させ、新たに500MHz分をモバイルブロードバンドへ割り当てる計画を…

日銀エリートの「挫折と転落」

元日銀マンで評論家としても知られていた木村剛氏は、なぜ経営者として失敗したのか?本書をひもとくことで、木村氏の明晰だけれど独善的な性格や、巧妙ではあるが反倫理的な経営手法が見えてくる。冒頭で木村氏を光クラブの山崎晃嗣に喩えるのは「言い過ぎ…

日本人と参勤交代

参勤交代と言えば、誰もが学校で習うものだから、研究もさぞや進んでいるものと思っていたが、本書によればそうではないらしい。徳川方から見たものは多いが、一般の藩から見た「参勤交代」については、まだ分かっていないことが多いようだ。外国人研究者が…

きょうの料理ビギナーズ 1月号

妻が買ってきた。この表紙はおそらく、ディズニーから著作権侵害で訴えられると思う。何せディズニーは、丸を三つ描いたらミッキーマウスだというのだから・・・

アニメは越境する

「日本映画は生きている」の第6巻。期待が大き過ぎたせいもあるのかもしれないが、他の巻と比べて残念な結果になっていると思う。「越境する」ということを意識したのか、日本人の論文が3本だけ(残りの5本が翻訳論文)というのは、結果として失敗ではな…

日本の論点2011

「日本の論点」はなるたけ毎年読むようにしている。「対論」形式が本書のキモだと思うのだが、87個挙げられてある論点の大半が、論者は一人で対決の形式を取っていない(対論形式になっていても、論点79「終身刑を創設すべきか」のように、両者とも死刑…

観る人、作る人、掛ける人

岩波のシリーズ「日本映画は生きている」の第2巻と第3巻。両者とも広い意味で「映画史」の書物と言ってよいと思う。前者の方が扱っている時代が古く、映画の誕生から、弁士の問題、そして1940年代頃までが対象である。後者は主として1950年代以降…

映画史を読み直す

セルフ・ドキュメンタリー

副題に「映画監督・松江哲明ができるまで」とあるように、映画監督の松江氏が、自らが映画監督となるにいたった経緯・半生を詳しく語る。氏は日本映画学校の出身だが、在学中からAV制作などにも関わる(こうした映像専門学校は、AV制作の現場と極めて近…

新しいマクロ経済学

中級レベルのマクロ経済学の教科書。古典派とケインジアンとを対立するものとして捉えず、両者の共通性と差異とを同じ土俵の中で捉えようとしているところに特徴がある。「補論」が多数付されている(数えたら20あった)。

ザ・クオンツ

タイトルの「クオンツ」は、Quantitative(数理的)の略で、要は数理的な手法を駆使して投資を行う金融エリートたちのことを指す。彼らのほとんどが博士号保持者で、頭がよく高収入であるだけではなく、刺激を求めているのか私生活でもポーカーなどのギャン…

ヒッチコック×ジジェク

「あなたがラカンについて知りたいと思っていたのに、(ヒッチコックにたずねそびれてしまった)すべてのこと」という英語題名の本が原書だが、同じタイトルのフランス語版の別の本も(おなじジジェクの編で)あるというのだから紛らわしい(そちらの邦題は…