歴史と統計学

 著者の竹内啓氏は日本を代表する著名な知識人の一人だから、もはや説明の必要はないのかもしれない。若くして大著『数理統計学』を表し、東大経済学部教授を務めた。80年代に岩波書店から『無邪気で危険なエリートたち』『情報革命時代の経済学』を出版、この二冊については私もリアルタイムで読み、影響も感銘も受けた。もちろん他にも多数の著作がある。
 本書は日本統計協会の雑誌『統計』に2014年から2018年に渡って連載された記事を加筆してまとめたもの。タイトルが示すように、狭義の統計史の本ではなく、著者の視野の広さが活かされ、経済や技術などの歴史的文脈の中で統計および統計学が語られている。「統計の誕生」「統計学の始まり」「古典確率論の時代」「近代と統計学の成立」「進化論と統計学」「激動の20世紀と統計学」「第二次世界大戦後の世界と統計学における多様化」「21世紀の統計学の課題」の、8部49章構成。これだけでも中身の豊富さは想像できるのではなかろうか。
 引用されている統計数値も多く、とくに経済において、悲しいことだが日本が逝長し、没落してゆくさまがよく分かる。日本の一人あたりGDPは、1990年にはアメリカを上回っていたが、現在は米国のみならず英仏独、カナダ、豪州にも追い越され、韓国にももうすぐ追いつかれる。
 数式も多いので、数学好きをも満足させるだろう。読書の愉しみを十二分に堪能できる一冊である。

歴史と統計学 ――人・時代・思想

歴史と統計学 ――人・時代・思想