2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

現代思想の20年

青土社の雑誌『現代思想』は、まさに日本の現代思想界をリードしてきた雑誌だと思うが、その編集長を長年に渡って務められた池上善彦氏の編集後記を20年分まとめたもの。一つ一つの文章は短いのだが、まとめて読むと、この二十年あまりの、世界および思想…

サウダーヂ

KAVCに見に行った。舞台は甲府。建設会社で「土方」をしている主人公の堀と、妻、タイ人の愛人、その建設会社でアルバイトをするタイ帰りの麻薬ジャンキー、国粋主義者のラッパーなどの交友の中に、グローバル化に揺れる地方都市の閉塞感が描かれる。 ht…

ユーロ・リスク

ユーロ圏の経済について、「高リスク圏」(ギリシア、アイルランド、ポルトガル、スペイン)、「中リスク圏」(イタリア、ベルギー)、「低リスク圏」(独仏、オランダ、ルクセンブルク、オーストリア、フィンランド)の3カテゴリーに分けて解説した入門書。

キングを探せ

法月綸太郎氏の新作ミステリ。重厚さは感じさせないが、読み終えた後に深い満足感に浸ることができた。4人の男たちによる「交換殺人」がテーマで、倒叙ものと思いきや、重要な情報はいろいろと伏せてあり、本格推理として楽しめる。 法月氏はこれまで、都筑…

増税は誰のためか

神保哲生・宮台真司による「マル激トーク・オン・デマンド」本の第9弾で、増税がテーマ。ゲストはエコノミストが多いが、中には「困ってるひと」の大野更紗氏なども含まれている。 さて、増税についてエコノミストたちの意見は割れている。本書においても、…

ビッグデータビジネスの時代

野村総研のコンサルタントが語る「ビッグデータ」時代のビジネス像。ビッグデータというのも、バズワードになりつつあるが、要は、大量に蓄積された行動データ等のことで、特にケータイ、スマホ時代に入ってから、個人の足跡や購買などに関するデータは大量…

ワンダーJAPAN 第5号

bookとするよりmagazineとした方がよいかもしれない。日本の「異空間」を探検するものだそうだが、本号の特集は「北海道ワンダー」。「住友奔別炭鉱立杭櫓」「浅野雨竜炭鉱」「北の京芦別」「登別中国庭園天華園」など、廃墟と、廃墟予備軍を、写真を中心に…

プライヴァシー権論

今から既に26年前に書かれた阪本昌成教授の本だが、まだまだ役に立つ所は多い。プライバシー概念に関する阪本氏の独特の考え方や、ほんの数十年前まで、行政側は住民基本台帳は一般公開が当然と思っていたことが分かる。

パターン、Wiki、XP

ウィキやエクストリームプログラミングの発想の源流を、建築家アレグザンダーの思想にさかのぼって探る。もう一つのきっかけは、ウォード・カニンガムとケント・ベックの論文「オブジェクト指向プログラムのためのパターン言語の使用」で、プログラムの記述…

悪魔の人類総背番号制666

まあ監視社会論というのは米国でも陰謀論と結びつきやすいのだが(そのような本もある)、日本でも学研のムーがこんな本を出している。住基ネットや納税者番号制はフリーメーソンの陰謀だそうな。推進派も反対派も失笑するだろう。ばかばかしい。

ニュースに騙されるな

テレビ局とIT企業の両方での勤務経験を持つ著者の、実感に基づいたニュースメディア論。特に独創的なことが書かれているわけではないが、まさに大手テレビ局社員が「特権階級」であるということがよく分かる。総理番に最も若い記者を当てるという慣習は知…

誰が負を引き受けるのか

原題は「Site Fights」だから、「立地の戦い」と直訳すべきか。米国の政治学者が、日本の政治を分析するという意味では、昔のカーティスの本を思い出させる。空港、ダム、原発のような施設が、どのような場所に立地するのか、端的に言えば、共同体の機能が弱…

政治と思想 1960-2011

柄谷行人氏が、自らの政治運動等の軌跡について、初めて語った本。NAMの失敗についても言及している。『「世界史の構造」を読む』と同様、柄谷の入門書としてはよいと思う。印象に残るのは、「デモ」の重要性。確かに日本ではデモはもはや、タブーにさえなり…

しとやかな獣

新藤兼人脚本、川島雄三監督の、これまた怪作。たいへんに面白かった。悪女を演じる若尾文子が主役ということになっているが、実際の主役は前田家の4人(父・伊藤雄之助、母・山岡久乃、姉・浜田ゆう子、弟・川畑愛光)のように思われる。前田家の父は、元…

3.11被災地の証言

東日本大震災の被災者の情報行動の分析。第一章は約3000人を対象とした調査の量的な分析で、必ずしも無作為抽出ではないけれど、それなりに役立つデータが得られている。ネット調査と面談調査を対比し、両者の特徴が分かる(当然前者は、コンピュータの…

3.11学

副題に「地震と原発 そして温暖化」とあるように、3.11以後の防災や環境問題についてまとめたもの。著者は、元毎日新聞記者の大学教授。例えば「メルトダウン」のような、鋭いスクープがあるわけではない。終章において、地球温暖化問題に対して、脱原発…

ワイルド・パーティー

ラス・メイヤー監督の怪作。ハリウッドにやってきた若い女性3人組のロックバンドが、叔母の後押しもありスターダムをのし上がるが、悲劇にも見舞われる、という物語。最後は、ハッピーエンドのような体裁だけれど、無残に殺されたメンバーの一人が可哀想で…

100の思考実験

タイトルが示す通り、哲学的な100の問いを、入門者に向けて提示するもので、著者の思考は示されるけれど、ほとんど結論は書いていない。情報論では有名な「中国語の部屋」なども出てきます。人体の瞬間移動のような荒唐無稽な思考実験もあるが、32の「…

自己啓発の時代

元は早稲田大学に提出された博士論文だそうだが、小難しいところはなく、一般向け書籍のようにサラサラと読める。中身は、戦後の「自己啓発書」の中身を内在的にまとめ、再検討したもの。第一章は理論、第二章は自己啓発書のベストセラーのおさらい。そして…

ツィゴイネルワイゼン

鈴木清順監督による名作映画(1980年)。見なくてはと思いつつ、近所のレンタル屋になかったということもあり、今回初めて見た。主人公は藤田敏八演じるドイツ語教師・青地。青地の親友である中砂(原田芳雄)は奔放な男で、やはりドイツ語教師であった…

大学キャリアセンターのぶっちゃけ話

著者は仮名で、民間企業で働いたのち、複数の大学のキャリアセンターに勤めた経験を持つ(ひょっとしてうちの大学かも)。教員はあまりキャリアセンターに関心がないとの指摘には耳が痛いが、他にも経験から得られた有益な指摘が随所に溢れている。例えば、…

愛の予感

女子中学生同士の殺人事件が起きる。設定は東京だが、長崎の事件をモデルにしているのだろう。被害者の父親は新聞社を辞め(妻は既に亡い)、北海道の苫東で工場労働者となる。加害者の母親も郷里である北海道に戻り、偶然にも、知らずに、被害者の父親が宿…

飼い食い

フリーライター兼イラストレーターの、内澤旬子氏の著作。この本は素晴らしい。肉を食べている人、全てが読むべき本だ。 内澤氏はこれまでも、『世界屠畜紀行』など、動物の屠殺をテーマにした本を書かれているが、本書ではなんと、自ら3頭の豚を飼い、食肉…

最新鉄道ビジネス

両者とも、雑誌と単行本の中間的な形態(いわゆるムック本)。前者は週刊東洋経済の別冊で、後者は洋泉社ムックの一冊。 そして両者とも、主としてビジネスの視点から鉄道を考えるものであり、また、各線区ごとの「営業係数」(100円の収入を挙げるのにい…

「鉄道」完全解明

ニューオーリンズ・トライアル

陪審員ものだが、「12人の怒れる男」「12人の優しい日本人」等とは違って、陪審員の会話だけに焦点を当てるのではなく、「原告側弁護士」「被告側弁護士」「陪審員9番の男とその恋人」の、三つ巴の「戦い」が描かれる。おっと、これでは抽象的で分かり…

概念分析の社会学

概念の分析を軸に実践する社会学の論文8編を収める。例えば第1章で扱われているのは、厄介な「人種」概念。「人種」など幻想だ、そんなものはないと言って済ませられない理由が、丁寧に論じられている。トピックスは、広い意味での医療社会学系のものが多…

ニッポン異国紀行

『物乞う仏陀』『遺体』といった話題作の著者である石井光太氏が、在日外国人の死、性愛、宗教、医療について取材して書いた著作。特に一章の、日本で死亡した外国人が、遺体を本国に運ぶだけで相当の金銭が必要というところは、これまでそんなことは考えた…

今日は関西学院大学へ、世界の「監視研究」をリードするディヴィッド・ライアン氏の講演会を聴きに入った。場所は法学部チャペルだが、出席者が思いの他少なく残念だ。私も自分の授業で宣伝したのに。ずいぶんと時間は押したが、その代わりたっぷり話が聞け…

空耳の科学

NTTの研究所で基礎研究に従事する著者が、横浜サイエンスフロンティア高等学校(科学分野のエリート校であるらしい)で行なった講義を本にまとめたもので、タイトルから分かるように、人間の聴覚認識がテーマ。人間の感覚が、進化過程によって有益なよう…