2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

サイバー犯罪とデジタル鑑識の最前線

安っぽいつくりのムック本だが、中身はそれほど軽いものではない。各種サイバー犯罪や情報セキュリティについての新たな情報が、5人の執筆者およびインタビュー記事によって語られている。

ことばと文字と文章と

高島俊男氏の「お言葉ですが」の別巻4。一篇を除いて書下ろし。 まず冒頭の標題作は、日本語の表記について、中学生でも分かるように平易に解説したもので、是非子どもたちにも読むことを勧めたい。 他は大人向け。例えば「いぎたない」という言葉が、元は…

「優」をあげたくなる答案・レポートの作成術

関西学院大学の櫻田大造教授の著作。タイトル通り、大学の試験答案やレポート作成について、教員の立場から、学生にアドバイスする著作で、極めて平易に書かれている。不満なのは、冗長なところだろうか。もし私ならば、この半分の薄さにすると思う。

地域政策学事典

1996年に、日本初の「地域政策学部」を発足させた高崎経済大学が、そのスタッフを中心に編纂した事典。基本的には大項目あるいは中項目事典で、一つの項目が1頁あるいは2頁で論じられている。50音順ではなく、内容のまとまりで構成されている。 初学者が…

自分のアタマで考えよう

人気ブロガー、ちきりんの著書。知識と思考を二項対立的に考え、知識が思考を阻害する側面ばかり強調するのはどうかとも思うが、高校生や大学生、あるいは若手社会人などが手軽に読んで考えるには良書。第5章「判断基準はシンプルが一番」の中で、「婚活女…

国策民営の罠

現在の原子力災害保障の基本を定めた法律は、50年前に制定された「原子力損害の賠償に関する法律」であるそうだが、経済学者である著者は、3.11後の賠償問題への関心から、この法律がいかなる議論を経て成立したのかを探って行く。それを探求の過程に…

ピース

秩父市を舞台にしたバラバラ殺人事件の真相を探る形のミステリだが、本格ミステリを期待するとやや肩透かし。論理的に犯人を推理で導出できるかというと、その点は心許ない。むしろ著者の主眼は、例えば「虚無への供物」が描いたような、マスコミ批判であり…

映画長話

日本を代表する映画監督となった黒沢清、青山真治の2人と、映画批評のカリスマである蓮實重彦老との鼎談。蓮實さんはもう70代も後半のはずだが、まだまだ意気軒昂で、褒めるものは褒め、けなすものは徹底的にけなす。アバターの3Dなどコテンパンな言わ…

地震と原発 今からの危機

神保哲生氏と宮台真司氏による、いわゆる「トーク・オン・デマンド」本の一つで、タイトルが示すように震災問題、原発問題を扱っている。ゲストは、釜石の防災教育に取り組んできた片田敏孝・群馬大学教授や、原発問題で活躍した小出裕章・京都大学助教、河…

持ち重りする薔薇の花

丸谷才一の新作小説。80をとうに越しているはずだが、それでも新作を書き続けるのはすごい。中身は・・・大したことない(笑)。財界の大物が、付き合いのあるカルテット(弦楽四重奏団)の人々のプライバシーを語るという形式なのだが、それがどうしたの…

ここ数日、上に挙げた『龍のかぎ爪 康生』の校正(再校)にかかりきりです。

パフォーマンスの美学

カミソリで腹に五芒星形を切るというショッキングなパフォーマンス映像を展覧会で観たことがあるが、本書の表紙がまさにそれ。マリーナ・アブラモヴィッチの『トーマスの唇』という題名だそうだが、なぜこうしたパフォーマンスが行われるのかを追求したのが…

あなたがメディア

朝日新聞社が編集委員を使ってこうした本を翻訳させ、出版するというのは、やはり一つの時代の流れかもしれない。ブログ等のCGMを活用する際の基礎知識や心構えなどが書かれている。とはいえ、実際にブログを長くやっている人間にとっては、得られる知識…

統計検定

昨晩は実家に泊り、今日は東大の本郷キャンパスへ久しぶりに出向く。第一回の「統計検定」を受験した。午前中は「統計調査士」、午後は「専門統計調査士」の試験。 試験の中身は、ちょっと不満があるなあ。知的好奇心・探究心を満足させるような問題が少ない…

なぜ逃げないか ゲーム論的分析

今日は筑波大学で午前中から夕方まで集中講義「映像文化論」。例年より小さな教室だったこともあってか、私語もすくなく、学生さんはみな真面目に聞いてくれていたように思う。 授業後、窓口となってくれている仲田誠教授にごちそうになる。ありがとうござい…

地図と愉しむ東京歴史散歩

「ブラタモリ」風書籍。新書版なのに、多数のカラー写真やカラー地図が載っていて、目を楽しませてくれる。ひまが出来たらこの本を片手に、東京をぶらぶらしてみたいものだが、定年後かな。

早稲田文学 4号

いやあ分厚い。早稲田文学ってこんなに分厚いものだったか? マクルーハンに関する小特集を目当てに読んだが、残念ながら私にとってはさほど興味深いものではなかった。 その他、特集1が「震災に」だが、こちらも不発という印象が強い。いくつかおさめられ…

裸のフクシマ

福島第一原発から30キロ圏内の川内村に住む著者が、3.11以降の経験を赤裸々に語る名著。ぜひ一人でも多くの人に読んでもらいたい。 私は菅首相や政治家たちにも同情すべき点はいろいろとあると思うけれども、結果として第一原発周辺の住民や行政の動き…

就職、絶望期

著者の海老原氏の本は、これまで2冊読んだので、その主張はだいたい分かっているのだが、有名な経済学者も、こと「日本的経営」や「就職」等については、きちんとデータを見て物を言っていないことが、氏の著書でよくわかる。欧米においても長期雇用が普通…

「上から目線」の構造

確かに最近、「上から目線」という言葉はよく聞くが、それに焦点を当てて一冊の本にしたのは、本書が最初ではないか。著者は大阪大学助教授などを歴任した心理学者。なぜ「上から目線」という言葉がよく、特に「悪口」のように使われるようになったのかを分…

暇と退屈の倫理学

若手哲学者が、自分の人生上の問題意識から、「暇と退屈」にまつわる知を探索する。意外に多くの学者名が出てくるけれど、中心はやはりハイデッガーの退屈論だろうか。正直言うと、私はハイデッガーは、主著の『存在と時間』など数冊しか読んでいない(この…

視覚ワールドの知覚

生態学的視覚論のJ.ギブソンの著作。「視覚ワールド」と「視覚フィールド」という二つの概念をキーワードにヒトの視覚を論ずる。前者は、ヒトが日常的に眺めている安定した風景、後者は、ヒトが実際に目にしている光景で、それを意識するのには特別な訓練…

文化のための追及権

「追求権」という概念は全く知らなかった。例えば文学や音楽といった著作物であれば、死後50年で著作権が切れるまで、印税という形で著作物収入が得られるが、美術系の作品の場合には、いったん作品が自分の手を離れてしまうと、それが後からどんなに値上…

「壁と卵」の現代中国論

著者は中国経済が専門の神戸大学准教授で、ネット上では梶ピエール(id:kaikaji)として知られている。本書のタイトルは当然、村上春樹の有名な、エルサレム賞受賞スピーチから取られている。専門上経済の話が主で、教科書で習ったような経済理論が中国経済に…

恥さらし

副題に「北海道警 悪徳刑事の告白」とあるのは間違いではない。本書の著者の稲葉氏は、覚せい剤を打って逮捕された「悪徳刑事」である。しかし、同情の余地もないわけではない。それはひとえに、警官たちのインセンティブが歪んでいるところにある。例えば、…

幸せな未来は「ゲーム」が創る

原著は「現実は壊れている:なぜゲームが我々を改善し、世界を変えることができるのか」。私自身はほとんどゲームはしないのだけれど、「現実」よりも「ゲーム」の方が楽しいという感覚はよくわかる。 ゲームは現実世界が満たせないでいる人類の真のニーズを…

ビエンナーレの現在

ビエンナーレおよびトリエンナーレに関する論文集。「越後妻有トリエンナーレ」「横浜トリエンナーレ」「アジア太平洋トリエンナーレ」などが論じられている。概ね妥当なことが書かれているように思ったけれど、「ビエンナーレ」に関する記事や文章を批判す…

山村政策の展開と山村の変容

離島の地域情報化政策の取材が一段落して、今後は山村の情報化の取材に重点を移そうと思っている。山村の地域政策の本は結構多く出ているが、そのなかで本書は今年出た、極めて新しいものだ。論文集だが、科学研究費の基盤研究B「現代山村における非限界集落…

20世紀環境史

20世紀の環境を歴史的に捉えた大著。第一部の「地球圏のミュージック」では、「岩石圏と土壌圏」「大気圏」「水圏」「生物圏」に分けて論じられ、第二部「変化のエンジン」では、何がこのような環境変化をもたらしたのかを人口や都市化、エネルギー問題な…

オウム真理教の精神史

著者はまだ30代の若手宗教学者だが、オウム真理教という怪物的な対象にがっぷり四つに組み、「ロマン主義」「全体主義」「原理主義」という三つのイズムを導きの糸に、近代全体の構図の中にオウムを位置づけた力作。序章で、これまでのオウム研究(例えば…