2016-01-01から1年間の記事一覧

存在と時間

ハイデガーの有名な著作と同名だが、ハイデガーとは基本的に関係がない。永井氏は日本の学界には珍しい本物の哲学者だと思う。「私」の存在の不思議さ、そして「今」という点の奇跡。哲学が立ち上がる瞬間を追体験できる。

自殺の歴史社会学

同名の研究会の成果で、「厭世自殺」「保険自殺」「過労自殺」「いじめ自殺」「自殺への対応」などが章ごとに扱われる。中でも私は保険自殺を扱った第二章に衝撃を受けた。世帯主や経営者の生命を潜在的な融資の担保にする金融システム(p.122)の日常化・・・…

アレハンドリア アリス狩りV

高山宏教授の「アリス狩り」完結編。長らく近刊予告にその名があり読書子たちを身もだえさせている「アリスに驚け」とは別書とのことだ。ユリイカ等に掲載されたエッセイなどを集めたもので、表題作の「アレハンドリア」は土岐恒二教授の追悼文だが、その中…

いま世界の哲学者が考えていること

まず第一章でポストモダン以降の哲学の潮流を解説し、二章以降は「IT革命」「バイオテクノロジー」「資本主義」「宗教」「環境」の問題ごとに、哲学者たちの思索を紹介する。啓蒙書として優れていると思う。

ハリウッド・バビロン

スコピオ・ライジングなどで知られるケネス・アンガーの著書。いわゆる「ハリウッド・スキャンダル」についての定番で、一度は読んでおく必要があると思い手に取った。確かに噂を基にした記述もあり、あることないこと自由に書いているのだが、ハリウッドと…

[book}ある投票立会人の一日

イタロ・カルヴィーノの初期作品のひとつ。これまで翻訳されなかったことからも分かるように、多彩な他の作品と比べてあまり面白くないのだが、カルヴィーノのファンには欠かせないだろう。

アガサ・クリスティと14の毒薬

これはユニークな読み物。砒素やタリウムといった毒物について、クリスティの小説を使いながら解説する。アガサ・クリスティは薬物に関して豊富な知識を持ち、それを実作に活かしていたことが良くわかる。いくつか、ネタバレのある部分があるが、そこのとこ…

映画の声

白眉とも言える大島渚論を中心とした日本映画論集。ほか、『二十四の瞳』や『浮雲』『秋津温泉』『仁義なき戦い』などが論じられるが、著者が40歳で急逝したとあとがきで知ってショックを受けた。そういえば私の生まれ育った目白の家の近所に、御園生さん…

意志薄弱の文学史

「日本現代文学の起源」という副題は当然、柄谷の名著のもじり。タイトルの意志あるいは無意志の問題が最もはっきり出てくるのは終章「意志をめぐる攻防」。そこに到達するまで、正岡子規と映画、夏目漱石と貧血、内田百輭と夢、横光利一とトーキー、大江健…

娯楽番組を創った男

新聞記者・丸山幹治の長男として生まれ、著名な政治学者・丸山真男の兄であり、京大経済を出てNHKでそれなりに出世をした丸山鐡雄の評伝。NHKで娯楽番組を創りながら、替え歌や川柳や舞台演出で社外でもそれなりに活躍した丸山だが、著者は「憎悪と嫉…

人類5万年 文明の興亡(上下)

古代地中海文明を専門とする歴史学(考古学)者が、独自の「社会発展指数」を計測し、大きなスケールで西洋と東洋の文明発達を比較、西洋近代が発展した要因を地理的なもの(大西洋は航海可能だが太平洋は広すぎた)に求める。ジャレド・ダイヤモンドが、ユ…

映画という物体X

近代美術館フィルムセンターの研究員の方の著書だが、夢中で読み進めてしまった。面白い。アーカイブとしての映画が主題だけれど、映画を考え直すために必読だと思う。物質としてのフィルム映画は「爆薬の上に牛の体内物質(ゼラチン)を塗りつけたもの」1(p…

カラスと亀と死刑囚

哲学でよくパラドクスと言われる問題を解説した書だが、著者の哲学に対する姿勢というかバランス感覚は優れていると思う。かつて体育系だったからだろうか?

アメリカ映画史におけるラジオの影響

早稲田大学に提出された博士論文。体裁も論文をそのまま綴じたような簡素なつくり。1920年代を中心に、映画とラジオというある意味ニッチな領域を全面展開。148ページの「キャサリン・ヘッ」というのは「キャサリン・ヘップバーン」のことですよね?

翻訳のダイナミズム

翻訳がいかに科学の伝達に貢献したか、ギリシア語からアラビア語を経てラテン語という軌跡はよく語られるが、本書では第二部で日本語への西洋科学の翻訳をテーマとして扱っており、日本人としてはうれしい。もっと翻訳を業績として高く評価してくれないかし…

2666

ボラーニュの遺作。謎の作家アルチンボルディをめぐって展開する、壮大な五部の連作長編を一冊にまとめたため、2段組で850ページを超える大部の本となっている。メキシコを舞台とする女性の連続殺人(数十人が殺される)は、土地勘がなく、また、次々と…

成瀬巳喜夫 映画の面影

川本三郎氏が新潮45での連載を本にしたもの。何とも言えず記述がゆるく、また繰り返しも多い。ハッとさせられるような驚きがない。どうにも物足りないが、これでいいのだろうか?

AI時代の勝者と敗者

人工知能によって大量失業が起きるのか、それとも人間にしかできない仕事が増えるのか、議論は尽きないところだが、本書もその問題に一石を投ずる。人工知能時代にいかに自分の仕事を守るのか、簡単に言えば、自動システムができない、やりにくいところや、…

情報ということば

著者の小野氏は長く神戸大学の教授(教養部→国際文化学部)をされた方だが、私は直接には存じ上げない。「情報」という言葉について、森鴎外が作ったのではないかという説が広まっていたが、それ以前に用例があることを詳らかにした研究で知られ、本書は退職…

オンラインデートで学ぶ経済学

スタンフォード大学経営大学院教授で男やもめ(?)の著者が、マッチングサイトでの自らの経験も交えながら、経済学の基本的な概念のいくつか(サーチ理論、シグナリング、逆淘汰など)をわかりやすく解説するもので、経済学を知らない人が学ぶのに適してい…

フェイシズ

ミラ・ジョヴォビッチがヒロインを演じるサスペンスミステリー。彼女は連続殺人犯の顔を見たはずだが、ショックで相貌失認となってしまった。しかし、犯人の側は彼女の顔を知っていて、口封じのために狙いにくる、というストーリー。

現代ゲーム全史

コンピュータゲーム、ビデオゲーム、デジタルゲーム・・・。呼び方はいろいろあるだろうが、電子的な手段を用いたゲームの歴史を丹念にたどる大部の現代史。見田宗介や宇野常寛による歴史区分を援用しながら、ビデオゲームの歴史を、「理想の時代」「夢の時…

映画の胎動

初期映画と前衛映画とにはさまれた時代である1910年代の映画は、これまでの研究の蓄積も薄く、映画史穴だったらしい。著者はまだ若い京大の助教だが、そこに力技でひとつの業績をなしとげた。それもロシア、仏独伊、日本のすべてに目配りをする形で。た…

確率で読み解く日常の不思議

確率は面白い。私は数学の中で、特に確率が好きだった。本書はおもしろい確率の話題に満ちている。本書の特徴は、実際にコンピュータでシミュレーションを行っていることで、プログラミングも書かれている。 中でも、投票定理は不思議だ。ある選挙で候補者が…

あたらしい憲法草案のはなし

自民党のまとめた「憲法草案」がどれほどひどい草案であるのか、文部省が戦後すぐに発行した「あたらしい憲法のはなし」のパロディのような形でまとめた書。特に、九章に割り込んだ「緊急事態条項」(98条、99条)は危険きわまりない。批判する側こそき…

ゴーン・ガール

結婚5年目のニックの妻が出て行った。美人で、ハーバード大学出身のライター。台所からは血痕が検出される。事件に巻き込まれたのか、失踪か? ネタバレになるのでこれ以上は控えるが、さまざまなたくらみがあり、目が離せない。メディアや司法の問題も含ま…

社会情報学会の2日目。友人の海老庵(阿部幸太郎・小樽商大准教授)にホテルから札幌学院大学まで送ってもらう。きょうはのっけからひどい発表を聞いてしまった。名前は秘すが「マクルーハンを読む」という発表は、本当に マクルーハンを紹介するだけ。マク…

札幌学院大学で開催されている社会情報学会に参加。 http://www.sgu.ac.jp/soc/ssi/Program.html午前中は、群馬大学の人々が行っている「Webにおけるナショナリズムの表出と社会情報」のワークショップに参加した。 発表はそれなりに興味深かったものの、ワ…

北海道へ。神戸空港から新千歳空港へのスカイマーク便。 レンタカーを借り、三笠市役所や歌志内市役所で資料収集をするも、めぼしいものはみつからず。 三笠は、北海道内の鉄道発祥の地のひとつ。幌内炭鉱の石炭を小樽港へと運んだ。今はすでに廃線だが、 鉄…

大学でまなぶ日本の歴史

帝京大学で行われている「日本史」「日本史概説」の教科書。