2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

天帝のはしたなき果実

この作家ならびに小説は知らなかったのだが、「虚無への供物」を意識した作品と聞き手に取ってみた。とにかく分厚いし、やたらにペダンティック’(それも、受験歴史のようなものが多い)で、話もなかなか始まらない。舞台は勁草館という架空の進学校。登場人…

赤線地帯

巨匠・溝口健二監督が、売春で生計を立てねばならない女たちの苦しみを描く、中では若尾文子演じる女性が一番の成功者で、とにかく男からは金をふんだくり、同僚などには高利で金を貸し付け、最後には夜逃げをした蒲団屋を買い取って実業家となるが、他の女…

学力低下は錯覚である

神永さんの統計関係の本は面白いものが多い。本書は、「大学生の学力低下」は本当なのか、データをもとに検証する。結論としては、有馬さん(元東大総長)が言った、全体の学力は低下していなくても、子どもの数は減り、大学の定員が増えれば、結局どこの大…

映画の瞬き

アメリカを代表する映画編集者の一人であるウォルター・マーチが、映画編集という仕事について解説した書。特に後半部では、デジタル技術が映画編集に与えたインパクトに関してよくまとめられている。

地域を変えるソフトパワー

編者は藤浩志氏だが、多数の執筆者の文章に短いコメントをつける感じ。全国で行われた、アサヒ・アート・フェスティバル関連事業を紹介する。沖縄市コザの「銀天街」、近江八幡のほんがら松明保存運動など。

リニア新幹線

リニア新幹線が実は「整備新幹線」として申請されていることなど、恥ずかしながら知らなかった。本書は、リニア中央新幹線を批判的に検討したものだが、確かに本書が言うように、リニアは大量の電力を食い、ほぼトンネルで車窓から景色も楽しめず、ネットワ…

都市・地域・不動産の経済分析

慶應義塾大学の瀬古美喜教授の退職記念論文集だそうだ。不動産や地域の経済問題について、回帰分析など統計的な手法を用いた論文が多く収められている。中には、結論と比べて分析が高度過ぎてそこまで必要かと疑問になる論文もあるが・・・第15章「発展途…

名前に何の意味があるのか

固有名や空名の問題には私も興味があるので読んだが、言語哲学の枠内での既存の研究の批判的な検討が主で、悪く言えば自家中毒気味。固有名の問題は大事だが、言語哲学だけでそれを解明しようというのは、やはり空しいことなのではないか。歴史学、地理学、…

初音ミクはなぜ世界を変えたのか?

本当に初音ミクは世界を変えたのかという疑問は残るが、初音ミクを生み出した札幌のクリプトン社や、ミュージシャンなどに丹念な取材を行っており、一読する価値はあるだろう。

日本語の近代

明治期の国語教科書などを素材に、日本語の表記がどのように変遷を遂げたのかを丹念にたどる。「和漢」から「和漢洋」そして「和洋」へというのが筆者の見立て。それだけでなく、第五章で、現代への問題提起も行っている。常用漢字の訓読みを増やし、例えば…

あらゆる名前

ポルトガルのノーベル賞作家、ジョゼ・サマラーゴの小説。 作者と同じ、ジョゼ氏と名づけられた主人公は(ちなみに、姓は与えられておらず、他の登場人物にいたっては、「局長」「課長」「あの女性」など、個人名さえ与えられていない)、戸籍管理局の下っ端…

日本改革原案

民主党衆議院議員の小川淳也氏の著書。田中角栄「日本列島改造論」や小沢一郎「日本改造計画」を意識したタイトルになっている。 私は小川淳也という政治家を、これまで意識したことがなかったけれど、この一冊を読んで氏は逸材であると確信した。氏は197…

変態アニメーションナイト2014

この「変態」は「変質者」といった意味ではなく、「メタモルフォーゼ」(形態が変質・変容すること)を意味する。以下が公式サイト。 http://wonder.calf.jp/metamo_night/ ピーター・ミラードの作品は何度見ても脱力させられる。今回最も面白かったのは、エ…

ワンダーフル

水江未来氏の作品群。水江氏の作品には、細胞のような生物のようなモチーフが多用され、それが音楽とも相俟って独自の効果を挙げている。

仕事終わり、神戸アートビレッジセンターに寄って、アニメを見てきた。

社会調査事典

「事典」となってはいるけれど、50音順の小項目事典ではなく、系統的な大項目事典で、社会調査、ひいては社会学に関する多数(全てとは言わないが)の項目が網羅され、これ一冊通読すれば社会調査に関する基礎的な知識は得られる。プロにとっても、自分の知…

メディア社会における「芸術」の行方

京都造形芸術大学の「藝術史」全16巻のうち、最後の第16巻にあたる。平易に書かれた大学生向けの教科書で、第1章から第5章までが「現代の音楽」、第6章から第11章が「映画」、第12章から第14章が「サブカルチャー」、第15章が「21世紀に向き…

ギークマム

「ギーク」(マニア、おたく、物事に熱中する人)なママ4人の共著。手作りのおもちゃ、料理、科学実験、手仕事など、ギークさを生かして子どもと遊ぶ方法が満載。例えば単純な○×ゲームもトーラス面で行うとあら不思議。アメリカの文化・文脈に依存している…

地域を変えるミュージアム

タイトル通りなのだが、地域との積極的な連携を図っているミュージアムを、全国から30館、紹介している。私がそのうち行ったのは、「せんだいメディアテーク」や「森の学校キョロロ」「アルテピアッツァ美唄」など6館だけ。逗子にある「理科ハウス」など…

角川映画

角川春樹氏が陣頭指揮を取って角川春樹事務所を立ち上げ、映画ビジネスに乗り出して「角川映画」を作り上げた最初の10年間(1976−1986)を扱った著作。犬神家の一族に始まり、人間の証明、野性の証明、復活の日と、ちょうど私が小学校から中学校程…

虚像の時代 東野芳明美術批評選

東野芳明という美術評論家の名前は聞いたことがあったが、実際に読むのは初めて。著者はすでに故人だが、これまで氏が発表した文章の中から選んで、昨年に出された。基本的に時評だから、確かに古くなっているところもあるけれど、現在に通じるところももち…

メディアの将来像を探る

早稲田大学メディア文化研究所の「研究会」からスピンオフして生まれた書籍。第4章と第5章はそれなりに興味深かったが、全体的にこの内容では専門家は大いに失望し、院生でさえ物足りなさを感じるのではなかろうか。早稲田大学メディア文化研究所はこれで…

消された「西郷写真」の謎

4月30日に紹介した「こんな写真があったのか」という本でも、西郷隆盛の写真が残っていないことについて1章が割かれていたが、本書は全体が、「なぜ西郷の写真がないのか」「本当はどこかにあるのではないか」という問いの追究である。西郷の写真ではな…

イワン・イリッチの死

「イヴァン・イリイチ」と表記したら、思想家と同じ名前になってしまうが、本書はトルストイの有名な小説。何事も上手にやり過ごし、それなりに出世も遂げた法律官吏のイワン・イリッチは、不運なことに怪我がもとで、まだ四十代の若さで、重い病気にとりつ…

神山プロジェクト

徳島県神山町は、地域活性化に興味ある人にとっては「知る人ぞ知る」町のひとつである。鉄道は通っていないが、徳島市からは車で1時間はかからないのだから、さほど不便というわけでもない。神山と隣村の佐那河内村(佐村河内ではありません)には光ファイ…

帰ってきたヒトラー

ヒトラーが2011年8月に、いきなり目を覚ますという発想で書かれた小説。まあこうした発想は特に目新しいものではないけれど、テレビの芸人として世に出るといった細部の創りこみでなかなか読ませる。上下巻で割と長いのに、結末はまだ読み足りない。

東京大学学問論

東大駒場で2011年まで科学史を教えていた佐々木力教授(現在は元教授)の著作。中身は大きく分けて、東大論、佐々木氏自らに降りかかったハラスメント疑惑の件、そして原子力ムラによる東大支配、と言ってよい。佐々木氏は、台湾人留学生からハラスメントで…

真実

著者は北海道新聞記者時代、道警の裏金つくりを暴くというスクープで日本新聞協会賞を受賞した優れたジャーナリスト。だが、道警は思いも依らない形で反撃してくる。道警幹部を辞めた佐々木という男が、名誉毀損で北海道新聞を提訴してきたのだ。しかも、北…

なぜ2人のトップは自死を選んだのか

事故が多発、不祥事の絶えないJR北海道。挙句、社長と相談役が相次いで自殺を遂げてしまった。その経営の失敗はどこにあったのか。もとより、組合間の仲が悪いこと、そして根本的に人口が少なく採算が取れない中で、鉄道以外の事業に重点を置いていったこ…

Q&A番号法

著者は弁護士で、この法律の立法にも参画した。55の質問と回答で、番号法の全体像を解説する。