ゴミ屋敷の資源回収

 

 

はじめに

 ゴミ屋敷が社会問題化して既に久しい。

 ゴミ屋敷の何が悪いのか、多くの人には自明であろうが、改めて確認しておく。まずは美観であろう。ゴミ屋敷は外から見ても「ゴミ屋敷」であることが多くの場合露わとなっており、都市・村落の景観を損ねることはなはだしい。近隣が協力して美しい街並みを築いても、ゴミ屋敷が一つあるだけで台無しとなる。「こちらから、ベッピンさん、ベッピンさん、一人飛ばしてベッピンさん」というギャグがあるが、「美しい家、美しい家、一軒飛ばして美しい家」といった具合である。昔のトウモロコシには時々、黒い粒が混じっていたりしたが、そんな感じである。ピアノの鍵盤の中に、一つだけ音の出ない鍵盤が混じっている、そんな感じである。

 それだけにとどまらない。ゴミ屋敷からは多くの場合、悪臭が放たれている。硫黄臭が噴出して「黄色い虹」を描いていることさえある。ゴミの中には生ゴミ、食べかけの食品や腐った野菜が混じっていたり、果ては排泄物が混じっていたりするからだ。先ほどの比喩で言えば、トウモロコシの粒の中に一つだけ悪臭を放つ粒が混じっていたり、ハーモニカの孔の中に一つだけ悪臭を放つ孔が混じっているようなものである。

 さらに住人の問題がある。ゴミ屋敷の住人は、体を病んだり、心を病んだりしている場合が圧倒的に多い。逆に言えば、心か体が病んでいなければ、家がゴミ屋敷になることはないだろう。よく言われるのが「セルフ・ネグレクト」、つまり、自分で自分の世話をするのを放棄した状態である。そうした人々を助け出すのも重要な課題である。

 

  • ゴミ屋敷をいかに見つけるか

 ゴミ屋敷を見つけるのは一般にはそれほど難しくはない。近隣の人々も大抵それに気が付いている。

 しかし全てのゴミ屋敷が見つけやすいわけではない。例えばマンションの高層階で、高度にプライバシーが確保された住居の中がゴミ屋敷になっている場合、外観からは分からず、また、臭いがさほど出ていない場合、簡単には見つけにくい。

 その対策としてドローンの活用が考えられる。高層階住居各戸のベランダから中を撮影すれば、そこがゴミ屋敷と化しているかどうか概ね判断できる。もちろん、カーテンなりが完全に閉められている場合には困難ではあるが、ゴミ屋敷の場合にはそこまで遮蔽が完全でない場合がほとんどである。

 低層階の場合には人手を使って調べ、高層階はドローンというのが現実的な「捜索手法」ということになるだろう。

 

 2.ゴミ屋敷からどのような資源を回収するか

 まずは金属ということになるだろうか。特に電気製品には多数の金属が含まれている。

 ゴミ屋敷を築く人の中には、元電気屋や修理工で、人並み以上に電気製品等に関する知識があり、そのためにゴミ集積場などから電気製品を持ち帰って修理をしているうちに、やがて持ち帰る方が主になってしまい、結果的に多数の電気製品がゴミ屋敷内に積みあがっている場合がある。電気製品に含まれるレアアース等を考えると、まさに宝の山である。

 例えばパソコンには金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、リチウム、ベリリウム、セレン、マンガンガリウムゲルマニウムなどが含まれている。金は1グラムで6000円くらい、プラチナは1グラム3000円くらい、銀は安いがそれでも1グラム80円くらいにはなる。途上国のスラムのゴミ山で金属を探すより、日本のゴミ屋敷で金属を探す方がおそらくはるかに効率が高いだろう。さらに電池などの中には錆びて有毒な物質を生み出すものも含まれており、もし雨漏りなどで排水が流れ出すと、環境汚染のみならず健康被害を引き起こす可能性さえある。

ガラスが含まれている場合もある。酒瓶や醤油の瓶に加えて、割れた窓ガラスが放置されて危険な状態になっていることもあるだろう。ガラスも資源としてリサイクル可能である。

またビニールやプラスチック、ペットボトルなどが大量に積みあがっている場合も多い。現代の生活では特に、プラスチックなど石油精製製品が包装材等に大量に使われている。コンビニやスーパーのレジ袋、肉や魚のトレイ、飲料のボトル等。これもこまめに捨てるなり、リサイクルボックスに出すなりしなければ、たちまち相当の量になる。ゴミ屋敷の場合もこれがかなりの量を占めている場合がある。

衣類が多い家もある。住民が着道楽で、多数の衣類を所有していたが、それを片付けられずに放置している場合や、電気製品と同様に古着を拾ってきてしまうクセがある場合もあるだろう。新品であれば場所を取るだけで、古着業者に売ったり、途上国や被災地に支援物資として送ることもできるだろうが、着たまま洗濯せずに放置した衣類や布団、毛布、カバンなどは、汗や汚れがついたまま悪臭を放ち、捨てるか燃やすくらいしか処分法がない。しかし中には、ダイヤモンドやルビー、サファイア、真珠などでできた宝飾品(指輪、ネックレス、ブローチ、ブレスレット等)がその中に埋もれていることもあり、まさに宝探しである。

趣味や嗜好品が混じっている場合もある。例えばスポーツ用品。ゴルフクラブやテニスのラケット、スキー板やサーフボード、バスケットのゴールやバレーのネットなどである。音楽が趣味の人の場合には楽器(ピアノ、フルート、バイオリン、ビオラ、トランペット、ドラム等々)や楽譜、レコード、カセット。オーボエばかりが33本出て来たことがあり、この時はさすがに「馬鹿の一つオーボエ」という言葉が口をついて出た。絵画が趣味の人であればキャンパスや絵の具、イーゼル、画板など。他に趣味の品としては例えば碁石、将棋盤、その他のゲームボード、トランプ、けん玉などのおもちゃ。これらは保存状態が良ければ古道具屋が値段付きで回収する場合があるが、そうでなければ鉄くずや木くず、プラスチックとして材質別にリサイクルに出すことになるだろう。「シャネルの碁盤」は、マリリン・モンローのサインでもついていれば高く売れるが、将棋盤はムリだ。人形も、保存状態がよければ売れることがあるが、壊れた人形は不気味である。

食料がゴミの中に埋もれていることもあるが、多くの場合は賞味期限だけでなく消費期限がとうの昔に過ぎており、口にすると健康を害するおそれがある。もちろん住民が冷蔵庫などに管理している食品はそのままにしておくべきだが、その中でもあまりにも期日の過ぎた腐った食品などは、廃棄するか、畜産飼料にするか、肥料にするか、といったことが現実的な選択肢となる。

紙類が多くの場所を占めていることもある。読書が趣味で、大量の本や雑誌を購入し、それがいつの間にか本棚からあふれ出て、廊下へ、居室へ、食卓へ、台所へ、玄関へ、ベランダへ、果てはトイレや風呂までも。「積ん読」だったものが、「溢れ読」「崩れ読」へと変貌してゆくのである。これらを資源とするには、古本屋への売却が基本であるが、古新聞など価格が付かないような類のものは、紙資源として古紙回収業者に引き取ってもらうことになるだろう。函入りの立派な文学全集や百科事典が二束三文で、ボロボロになった一昔前のヌード付き週刊誌が高価ということもあり得る。希少性が価格に影響するからだ。「レーニン全集」なども今や読む人は零人だろう。

 市販の本や雑誌、新聞以外に、当人のメモやノートが残っている場合がある。これも時として貴重な情報資源となる。メモ類が大量の場合には人手で検証するのは困難であるので、OCRを使って読み込みAIが一次的な解釈をするということになるだろう。珍しい体験をしたとか、あるいは、自らの犯罪記録を残している場合もあるだろう。前者の場合には出版やサイトでの公開などが考えられ、後者の場合には捜査機関に連絡することで、未解決事件の真相が明らかとなったり、冤罪の人間が釈放されたりすることもあるだろう。メモだけでなく、アナログ写真のアルバムが大量に出土することもある。これも、過去の風俗等を知るのに貴重なことがある。

 

3.住人との関係

 ゴミ屋敷の主がまだ生きている場合には、その当人から話を聞くという形で、有益な教訓が得られる場合がある。なぜ家がゴミ屋敷になったのか、それまでの経緯はどうであったのか、といったことだ。但し、話があまりにも長く、かつ薄く、それ以上の有益な情報が期待できない場合には、人型アンドロイドを置いて対話をさせ、人間は撤収することが推奨される。費消される人的資源の方が大きいからである。また、人の記憶は上書きされやすくあてにならないことにも注意すべきであり、事実との照合が望ましい。

 ゴミ屋敷の住人は、男性の独り暮らしが多く、42%を占める。しかし、女性の独居も33%おり、35%は複数人で暮らしている。複数人で暮らしている場合、家族(夫婦、親子、兄弟など)が8割以上を占めているが、家族でない場合も2割弱程度存在する。家族でない場合は、友人同士、先生と生徒、漫才コンビ新興宗教の教祖と信徒、といったパターンがある。最後者の場合、数十人がゴミ屋敷の中で息をひそめて暮らしていた事例がある。だが祭壇のロウソクの火が引火して火災になり発覚した。

 痛々しい事例としては、ゴミ屋敷の中から住んでいた人の遺体が見つかる場合がある。遺体は一体の場合がほとんどだが、中には夫婦や親子、兄弟などが両方とも亡くなっていることもある。そして多くの場合、死亡から相当な時間が経過しているため、残念ながら臓器や角膜の再利用には適さない。したがって、資源として回収することはできず、荼毘にして埋葬ということになる。

遺体の死亡理由が他殺や自殺であった物件は告知義務が発生するが、元は「ゴミ屋敷だった」というだけでは告知義務は発生しない。土地も家も生まれ変わり、ゴミ屋敷の資源回収は完成したと言えるだろう。

 

4.おわりに

 では他殺や自殺のあった事故物件はどうするか。一つの成功事例として、そのまま「ゴミ屋敷型お化け屋敷」というアトラクションにする方法がある。開店一年目は物珍しさで年間利用客が10万人に達した。しかし二年目には6万人まで減少。なんらかのテコ入れが必要な時期に来ている。