2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

日独比較研究 市町村合併

著者はもと自治省の官僚で、現在は早稲田大学教授。タイトルにある通り、日本とドイツの地方自治制度を比較しながら、市町村合併について考えるもの。とはいえ、ずいぶんと制度が違っていて、参考になる部分は少ないのではないかとも思う。著者の問題意識は…

311情報学

3.11以降の情報学は何をすべきなのか?この問いかけに答えようとする著作。第一章では吉見俊哉氏が「311情報学序説」を、第2章では三浦伸也氏が「311情報学の試み」を、第3章では著者3人に加えて伊藤守・早大教授が共同討議を行い、第4章では…

赤い糸の呻き

西澤保彦氏のミステリ集。表題作の「赤い糸の呻き」がベストか。「赤い糸」という言葉から連想されるように、「一目惚れ」が作品の軸となっている。運命を変えようと思うなら、自分の身体を張れという、登場人物の一人の言葉が重い。読者への挑戦が挟み込ま…

「謎」の解像度

円堂都司昭氏のミステリ評論で、綾辻行人や有栖川有栖、法月綸太郎、折原一といった、現代日本を代表するミステリ作家の作品を、時代と絡めて論じて行く。ネタばれにならないように気を使って書かれているため、犯人の名前がわかるような無粋な論はない。こ…

レスラー

ミッキー・ロークが、年老いたレスラーを熱演する。予想外に感動してしまった。ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。 スタントや特殊メイクも使っているのだろうけれど、大仁田厚ばりの「有刺鉄線デスマッチ」やら、電動ステイプラーを使った攻撃やらで、ミ…

「東京電力」研究 排除の系譜

ジャーナリスト斎藤貴男氏が、東京電力について幅広く取材したもの。多くの資料が博捜されていて読み応えがある。特に、やたら褒められがちな平岩外四氏についても、厳しい意見が述べられているのは注目に値する。 斎藤氏の意見は、概ね首肯し得るものだが、…

公共社会学 2

先日紹介した「公共社会学」の2巻で、副題は「少子高齢社会の可能性」。第1部「福祉社会の可能性」、第2部「高齢社会の可能性」、第3部「少子社会の可能性」の3部構成。旧鷹巣町が「日本一の福祉」で有名だったとは、知らなかった(9章)。しかし選挙…

社会調査の応用

同じ弘文堂から出版された、「社会調査の基礎」の続編。社会調査士カリキュラムの「E科目」(量的なデータ解析)と、「G科目」(社会調査の実習)についてまとめてある。編者の3人が主として本文を書き、その他約20人の社会学者が1ページづつのコラム…

原発依存の精神構造

「日本人はなぜ原子力が『好き』なのか」という刺激的な副題が付いているが、中身は先日紹介した中公新書とかなり重なっていて、要は斎藤環氏が震災後に求めに応じて書いた文章が集められている。「フクシマ」という、見せ消ちで棒線を引くという表記にこだ…

文明

『憎悪の世紀』などの著作で知られる歴史家ニーアル・ファーガソンが、16世紀以降の西洋文明の「成功要因」を、「競争」「科学」「所有権」「医学」「消費」「労働」の六点から説明する著作。と言っても歴史書だから、その背景などの説明も豊富だ。例えば…

映画と国民国家

東大に提出された博士論文。蓮實さんの播いた種が着実に開花しているということだろうか。本書も、学術論文というよりは、映画評論という趣。第一章で小津安二郎の「その夜の妻」「非常線の女」、第二章で清水宏の「港の日本娘」、第三章で島津保次郎の「家…

CTRL[SPACE]

ZKM(ドイツのカールスルーエにあるメディアアートの拠点)において、2001年10月から2002年2月にかけて開催された企画展CTRL[SPACE]の図録なのだが、図録にしては極めて大部で(600ページを超える)、重く、内容も豊かである。実を言うと、この本を私自身の…

読売新聞ニュースより 原口元総務相の地元、地デジ補助13億「不当」 . 総務省が地上デジタル放送(地デジ)導入に伴う難視聴対策として実施したケーブルテレビ(CATV)整備事業を巡り、13億円余の補助金を受けた佐賀県内5市町のCATV加入率が低…

はじめての統計15講

こちらは統計一般のより優しい入門書。説明については、それなりに分かりやすいと思うが、例題や練習問題の解答が間違っているのではないかという重大な疑惑がある。いくつか解いてみた問題のうち、何問も解答に疑問がわくのだ(もちろん、私も絶対の自信が…

入門はじめての時系列分析

時系列解析(分析)についての入門書は(多変量解析と比べて)少ないから、期待して読んだが、何とも中途半端というのか、性質が分かりにくい本だ。まず、全くの初学者が読んだら、全く分からないだろう。肝心なところの説明が全く抜けていたり、舌足らずだ…

21世紀探偵小説

笠井潔氏を中心とする「限界研」の、4冊目?の論文集で、副題は「ポスト新本格と論理の崩壊」。ミステリー論が当然中心にあるのだが、論文によっては小説のみならず、ゲーム等も扱っている。ロラン・バルト等による「テクスト中心」の見方について、サルト…

ZOO

乙一の同名の短編集から、5編を選んで映画化したもので、監督もそれぞれ違う。いずれも、後味はあまりよくないが、見て損はない。このなかで一押しは、神木隆之介君がかわいい「So-Far」かな。「Seven Rooms」は殺人鬼の動機が全く分からないし(そのような…

表象06

表象文化論学会の学会誌だが、一般向けにも販売している。巻頭に、森村泰昌と小林康夫の対談があり、なかなか興味深い発言もある。その後、十本程度の論文と、書評。論文の中には、深く文芸や映像に沈潜したものだけでなく、相当に政治的なものも含まれてい…

知のデジタルアーカイブ

総務省情報流通行政局による報告書(文科省、文化庁、経産省もオブザーバー参加している)。いかにデジタルアーカイブを構築するか、実務的な視点からまとめられたもの。事例も豊富で、平成21年度地域ICT利活用交付金(2300万円)を利用して作られ…

サスペンス映画史

東大に提出された博士論文を改稿したもの。タイトル通り、サスペンス映画について精緻な論が、映画作家や作品に即した形で論じられる。グリフィスに始まり、初期喜劇映画(チャップリン、キートン、ロイド等)、フリッツ・ラング、オーソン・ウェルズ、そし…

日本文明圏の覚醒

ちょっと変わった本だ。著者は、韓国の大学で日本語を教えた経験も持つ、朝鮮関係が専門の筑波大教授だが、本書はあくまでエッセイという位置づけで、モダンという桎梏(特に、ドイツ的に思考)からの解放や、日本と中韓との違いなどを強調した著作。けっこ…

ネットと愛国

ネットを中心に一時期勢力を伸ばした、右翼団体「在日特権を許さない会」(在特会)の実情を取材したルポルタージュ。G2に連載されたものが核となっている。代表の「桜井誠」(本名は高田誠)の人格や、他の運動家について、その実像が書かれているが、途…

首長パンチ

佐賀県武雄市で、最年少市長(当時)となった樋渡啓祐氏の著作。総務省での経験から、沖縄や高槻市への出向、出身地である武雄市での市長への誘い、無投票かと期待したが実際には一騎打ちで行われた市長選挙、そして、赤字を垂れ流す市民病院の民間売却問題…

殉愛 原節子と小津安二郎

原節子と小津安二郎の秘めた恋物語は、日本映画好きにはもはや常識化したテーマなのだが、そこに新たに加わった一冊。画期的な新事実が発掘されているわけではないのだが、両者の周辺の人間模様を丹念に洗い出してはいる。原節子と、その義兄(姉の夫)であ…

神々の汚れた手

藤村新一による、旧石器捏造事件は、まだ記憶に新しい。本書は、藤村一人に責任を押し付け、その記述を利用して「学問的業績」を挙げたり、著作を書いたり、研究費を得たりしていた学者たちを告発するもの。具体的には、藤村に近いところで「仮説」を立てて…

「国の借金」新常識

著者は工学出身者だから、経済・財政についてのトンデモ本かと思ったが、意外に(?)まともな本だった。まともというのは、経済学の教科書に従っているという意味ではなく、経済や国家について全うな考え方をしている、という意味である。財政赤字がひどく…

この世で一番おもしろいミクロ経済学

原題は「マンガで経済学入門」といったタイトルだから、この邦題は明らかに「過剰広告」だ。中身は、確かにゲーム理論を早くに導入するなど、一般のミクロ経済学の教科書と比べて工夫している点もあるが、基本的にはミクロ教科書に「マンガ」という糖衣をま…

被災した時間

精神科医の斎藤環氏が、3.11後の依頼原稿を、ほぼそのままの形で新書にしたもの。この「リセット」を(ひきこもりの人等にとっての)「チャンス」と捉えるべきとして原稿を、斎藤は後で適切でなかったとしているけれど、そうした捉え方はあっていいと私…

電通と原発報道

東京電力がいかに巨額の資金をマスコミに流して、自らの都合の悪いことを報道させないようにしているのかは、最近はよく知られてきた。本書は、元博報堂勤務の著者が、電力会社によるメディア支配や、電通によるメディア支配、電通と博報堂とのつばぜり合い…

会社員とは何者か?

自らも「会社員小説」をいくつか書いている作家の伊井直行氏が、これまでの会社員小説を読み解く書。源氏鶏太、城山三郎、黒井千次、坂上弘、池井戸潤などから、最近の津村記久子「アレグリアとは仕事はできない」、長嶋有「泣かない女はいない」などまで。…