{book]植物は未来を知っている

正直なところ、私は植物への関心の薄い人間で、私の母は花好きでいろいろなことを教えてくれたのだが、さっぱり頭に残っていないほどだった。
 本書を読んだのもたまたまなのだが、読み始めて興奮した。とにかく面白いのである。植物の持つ様々な能力が、美しい写真とともに解説してある。章題を紹介すると、「記憶力」「繁殖力」「擬態力」「運動能力」「動物を操る能力」「分散化能力」「美しき構造力」「環境適応能力」「資源の潤環能力」となる。これだけでもワクワクしませんか?
 たとえばオジギソウの記憶実験。鉢植えのオジギソウを落下させると、最初のうちは葉を閉じて反応するのだが、七、八回も繰り返すと、もう閉じなくなる。安全だからわざわざ閉じませんよ、というわけだ。
 ハマミズン科のリトープスという植物は、石に擬態する。地中に暮らし、葉だけが地面の上に出るのだが、その葉が完璧に石を擬態しているのだ。もちろん捕食されないために。
 著者は、人間が植物から学べることは多いとする。例えば建築の分野ではすでに、オオオニバススイレン科の植物で、人間が乗っても沈まない大きくて丈夫な円い葉を水面に浮かべる)を模して作られた建築物が作られている。
 著者はイタリア人の植物学者。第8章では無重力実験に参加した際に、著者の犯した失敗談が赤裸々に語られていて笑ってしまう。
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インビジブル・ゲスト

最近は忙しくて映画館に行くことはむろん、DVDを自宅で見ることもなかなかできないが、やっと時間を作ってミステリー映画をひさしぶりに見た。これは当たりだった。密室に愛人の女性の死体と二人きりでいるところを発見された男性。彼は犯人なのか?何者かによる罠なのか?弁護士との対話から真相が探られて行く。
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VRは脳をどう変えるか?

著者はVR研究の第一人者で、フェイスブックザッカーバーグも著者の研究室を訪れてVRシステムを体験した。私は実際に本格的なVRシステムを自ら体験したことはないが、本書を読むだけで、それがいかに臨場感があり、有効(危険な任務のシミュレーションや、やけどの痛みから気を反らすことなどに役に立つのである)かつ危険(VR酔いを起こしたり、仮想の危険にパニックを起こしたりする)なのか、まさに仮想体験ができる。VRの今後を考えるのには欠かせない一冊と言える。

VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学

VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学

[book}ドローンの哲学

著者はフランス人で、原題は「ドローンの理論」。ここで言うドローンは、観光地の撮影といった牧歌的な用途のものではなく、軍隊が敵国で殺傷を行うために飛ばす兵器としてのドローンである。そうした兵器を使うことには倫理上どんな問題があるのかという厳しい問いかけが本書のテーマ。もちろん簡単な結論などあろうはずもないが、著者が真剣に問うていることは表現の端々から伝わってくる。
 例えば、ドローンを使って殺傷する兵士を讃えるために、彼らは自分の命を危険には晒していないが、PTSDなどの深刻な精神疾患に陥る危険があるから英雄なのだ、とする論があるらしい。そんなのは嘘だと著者は一蹴する。

ドローンの哲学――遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争

ドローンの哲学――遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争

イギリス人はおかしい

映画監督リドリー・スコットの家でハウスキーパーを務めていた著者が、スコット家での経験や、その他イギリスで感じたこと、考えたことをまとめたエッセイ。
 著者は割とぶっとんだ経験の持ち主で、姫路生まれ、調理師となり、料理修業のためヨーロッパに渡るが、イギリスで音楽家の青年と出会い、結婚。しかし二人で日本に帰ってから離婚し、祇園のホステスを経て、再び渡英、料理人やハウスキーパーとして働くこととなった。
 リドリー・スコットは大変なお金持ちで、ロンドン、アメリカ、フランスに大邸宅を所有し、なおかつ大のキレイ好き、帰ってくる前には大掃除が必要なだけでなく、帰るとスコット氏自らも掃除をしている。
 しかし、著者がイギリス人一般に向ける目は辛辣だ。特権にあぐらをかいて学ぶことをせず、労働者や外国人をバカにする「貴族」階級と、勤勉に働くことをしない「労働者」階級。木村治美林望が美しく描いたイギリスとは違うイギリスがここにある。そしておそらく、高尾氏の描くイギリスの方が実態に近いだろう。サッチャーに対しても厳しい。
 20年前の本だから、多少はイギリスの事情も変わったかもしれないが、大きく変化したとも思えない。このまま英国は沈んでゆくのだろう。日本にとっても他山の石として学ぶべきことは多数ある。

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book[世界一幸せな子どもに親がしていること]

著者2人はそれぞれ米英出身の女性だが、結婚してオランダに住み、2人の子の母となった。ユニセフの2013年の調査では、オランダの子どもたちが最も、そして突出して、幸福を感じていたのだという。しかしオランダでの子育ては、彼女たちには驚きの連続だった。イギリスもアメリカも、特に中流以上の子供は、試験勉強に追い立てられる。しかしオランダでは、子どもたちはより自由に、のびのびと過ごしている。そして著者たちも、オランダ流の子育ての良さを知り、順応してゆく。
 子供を一人で遊ばせておくと、米英のみならず日本でも非難されるようになってしまったが、本来子どもは親の目のとどかないところで自由に遊びたいはず。もちろんわずかながら危険はあるだろうが、そうそう犯罪が起きるわけもない。
小さい子供がいるとつい口うるさくなりがちだから、こうしたことを頭に留めておくのは意義があるだろう。
オランダの子供たちは、朝食にはチョコレートをかけたパンを食べるのが普通だそうだ。夕食は栄養バランスに気を使うが、朝食くらいは好きなものを食べさせる。これならすぐに実践できる。うちの子供たちもチョコレートは大好きだからだ。鼻血も出すが。

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歴史と統計学

 著者の竹内啓氏は日本を代表する著名な知識人の一人だから、もはや説明の必要はないのかもしれない。若くして大著『数理統計学』を表し、東大経済学部教授を務めた。80年代に岩波書店から『無邪気で危険なエリートたち』『情報革命時代の経済学』を出版、この二冊については私もリアルタイムで読み、影響も感銘も受けた。もちろん他にも多数の著作がある。
 本書は日本統計協会の雑誌『統計』に2014年から2018年に渡って連載された記事を加筆してまとめたもの。タイトルが示すように、狭義の統計史の本ではなく、著者の視野の広さが活かされ、経済や技術などの歴史的文脈の中で統計および統計学が語られている。「統計の誕生」「統計学の始まり」「古典確率論の時代」「近代と統計学の成立」「進化論と統計学」「激動の20世紀と統計学」「第二次世界大戦後の世界と統計学における多様化」「21世紀の統計学の課題」の、8部49章構成。これだけでも中身の豊富さは想像できるのではなかろうか。
 引用されている統計数値も多く、とくに経済において、悲しいことだが日本が逝長し、没落してゆくさまがよく分かる。日本の一人あたりGDPは、1990年にはアメリカを上回っていたが、現在は米国のみならず英仏独、カナダ、豪州にも追い越され、韓国にももうすぐ追いつかれる。
 数式も多いので、数学好きをも満足させるだろう。読書の愉しみを十二分に堪能できる一冊である。

歴史と統計学 ――人・時代・思想

歴史と統計学 ――人・時代・思想