1997年、世界を変えた金融危機

本書の内容を乱暴に要約してしまうと、1997年の金融危機の本質を、投資家心理が不確実性を嫌い「質への逃避」(カバレロクリシュナムルティ)を起こしたことに見ており、こうした状況下では政府によるある意味強気の政策が必要である、ということになろうか。
だが本書の面白さはむしろ、第2章の、「ナイトの不確実性」を説明した部分にある。フランク・ナイトは、シカゴ大学で長らく経済学を講じ、フリードマンなどにも影響を与えた学者だが、不確実性を、確率分布を想定できる「リスク」と、想定できない「真の不確実性」とに分けた。ナイトは博士論文『リスク、不確実性、利潤』(邦訳は1959年に文雅堂銀行研究社というところから出ている)で、利潤を生む可能性を持つのは後者の「真の不確実性」の方だと論じた。前者のリスクは、保険業者など各経済主体の競争で、「織り込み済み」になってしまうので。
ひとびとがリスクよりも「真の不確実性」を嫌うということを実験によって証明したのがエルスバーグで、彼によってナイトの理論が今日まで残ることとなった。
1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)

マックス・ヴェーバーの哀しみ

なにやら「理髪店主のかなしみ」(ひさうちみちお)のようなタイトル。著者は、ウェーバー「プロ倫」論文の、文献学的な間違いを厳しく糾弾し、ウェーバー学者たち(特に折原浩氏)を恐慌に陥れた羽入辰郎氏。マックス・ウェーバーは、母親の愛を求めて、好きでもない学者という仕事に就き、そのために精神を壊したというのだから穏やかではない。ウェーバーバニヤン天路歴程』からの引用部分を改竄したことを論じた部分は詳細を極めているが、それ以外の部分は、妻だったマリアンネの手記に頼る部分が多く、推測にとどまった感がある。
マックス・ヴェーバーの哀しみ―一生を母親に貪り喰われた男 (PHP新書)

ブラックキス

手塚眞によるホラーミステリー。ところどころ映像の効果として素晴らしい場面があるが、ストーリーそのものはちょっと変で、謎解きのカタルシスはあまり得られない。なにせ動機が、リアリティを全く欠いている。父殺しの一種か?題名も悪い。

ブラックキス [DVD]

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