1997年、世界を変えた金融危機

本書の内容を乱暴に要約してしまうと、1997年の金融危機の本質を、投資家心理が不確実性を嫌い「質への逃避」(カバレロクリシュナムルティ)を起こしたことに見ており、こうした状況下では政府によるある意味強気の政策が必要である、ということになろうか。
だが本書の面白さはむしろ、第2章の、「ナイトの不確実性」を説明した部分にある。フランク・ナイトは、シカゴ大学で長らく経済学を講じ、フリードマンなどにも影響を与えた学者だが、不確実性を、確率分布を想定できる「リスク」と、想定できない「真の不確実性」とに分けた。ナイトは博士論文『リスク、不確実性、利潤』(邦訳は1959年に文雅堂銀行研究社というところから出ている)で、利潤を生む可能性を持つのは後者の「真の不確実性」の方だと論じた。前者のリスクは、保険業者など各経済主体の競争で、「織り込み済み」になってしまうので。
ひとびとがリスクよりも「真の不確実性」を嫌うということを実験によって証明したのがエルスバーグで、彼によってナイトの理論が今日まで残ることとなった。
1997年――世界を変えた金融危機 (朝日新書 74)