復刻版教科書 帝国地理 大正7年

タイトルにもある通り、大正7年に刊行された文部省検定済の中等教育程度の地理教科書をほぼそのままの形で復刻したもの。中身は日本の地誌が中心だが、朝鮮、台湾、樺太も含まれる。順序としては、まず帝国の中心の関東地方に始まり、続いて奥羽(東北)、本州中部(中部)、近畿、中国、四国、九州、台湾、北海道、樺太、朝鮮という順序で記述される。時代を反映して、差別的な用語があったり、軍事拠点の記述があったり、興味深いところが多い。例えば朝鮮族について、「藁葺(わらぶき)の小屋に住し、遊惰安逸に日を送る者多く」などと書いている。
 巻末には、「重要都市村落人口一覧表」が載っているが、これがまた興味深い。例えば「東京府」の項目では、東京市205.0、澁谷町6.3、八王子市3.1、王子町2.9、千住町2.6、南千住町2.3、品川町2.3、となっていて(単位は万人)、後に東京23区に編入された町が未だ独立した自治体だったことが分かる(八王子以外)。神奈川県は、横浜市39.8、横須賀市8.5、小田原町2.1、浦賀町1.8、鎌倉町1.1、秦野町1.1で、後に政令指定都市となる川崎が書かれていない。埼玉県は市がなく、川越町の2.5万人が筆頭で、以下、熊谷町2.1、大宮町1.5、浦和町1.1、秩父町1,1で、川口がない。栃木県では宇都宮市5.4の次に来るのは足尾町3.3である。福島県は、若松市4.2、福島市3.4、郡山市2.2、平町1.7で、今ではいわき市郡山市福島市会津若松市という人口順位だから、ちょうど逆転している。青森市の人口が既に弘前市を超え、八戸町を大きく上回っているのはやや意外だった(青森市は明治以前は何もない寒村で、弘前と八戸の間をとって県中央の県都を置いたという経緯だから、短時間に相当に人口を増やしたことになる)。同様の経緯の宮崎町は、都城町の人口を上回っていなかった。山形県は、山形市に次ぐのは米沢市で、酒田町や鶴岡町を大きく上回っている。福岡県では、北九州市を構成することになる門司、小倉、八幡、若松は既に市となっているが、戸畑については記述がない。鹿児島県は、鹿児島市の次に書かれているのは、後に鹿児島市編入される谷山村である。沖縄と北海道は区制をとっており、那覇区5.6、首里区2.4、札幌区9.7、函館区10.1、小樽区9.3、旭川区6.3、室蘭区3.1などとなっている。九州で一番人口が多いのは福岡市でなく長崎市である。
人口の多い順に並べると(抜けがある可能性もあるが)、東京市205.0、大阪市139.6、京都市50.9、名古屋市45.2、神戸市44.2、横浜市39.8、広島市16.7、長崎市16.1、金沢市13.0、呉市12.8、仙台市10.4、などとなる。