ヴァナキュラー・モダニズムとしての映像文化

早稲田大学の長谷正人教授による映像論集。書き下ろしがないのが残念ではあるが、著者が各所で書いた17本の論文・エッセイがほぼそのままの形でまとめられている。ヴァナキュラー(土着的な)モダニズムというのは、元はミリアム・ハンセンの用語法だそうだ(読んだかもしれないが気づかなかった)。写真・映画・テレビなどを幅広く扱っている。中でもやはり、小津安二郎論が心に残った。蓮実重彦による表層批評が落ちこぼしたもの、例えばその中に聞き取れる「GHQ占領政策への批判」を、丁寧に拾い上げている。また、高倉健論や山田太一論も必読だろう。長谷教授が山田太一の中に読み取るのは、「理性の公共圏」からはみ出してしまう、弱い人間たちの「愚痴の共同体」だ。