枕草子のたくらみ

この本は素晴らしかった。清少納言といえば、知的で天真爛漫といったイメージを私は持っていたが、本書で描かれる清少納言はまったく違う。何よりもまず中宮定子を支えるために枕草子を執筆、著者が精緻に読み解くところでは、清少納言は有名な歌人の家系に生まれた重圧に苦しみ、自らを見掛け倒しのえせ者と自覚していた。そして、中宮定子および、定子の出身である中関白家(藤原道隆の家系)の名誉を守ることが第一なのだけれど、それだけではなく、覇権を握った藤原道長をも怒らせないように配慮しつつ、慎重に筆を書き進めている。そのおかげか、枕草子は歴史の風説に耐え、今でも読み継がれる古典となった。