離脱・発言・忠誠

著者のハーシュマンの名前は不勉強ながら本書を読むまで私は知らなかった。ベルリン生まれのユダヤ人学者で、戦後は米国の大学で教鞭を執った経済学者だが、他方、経済学の限界にも鋭く気づいており、本書もいわば、経済学と政治学との間を架橋するような独創的は発想による著作。経済学では、商品や組織に不満がある場合には、黙ってその商品を買わなくなるか、あるいはその組織から抜ける、と考えるが、ハーシュマンは、そうではなく、商品や組織に文句をつける(「発言」)という手段の方が合理的な場合があり、いったいそれはどのような場合なのかを詳しく分析する。このハーシュマンの発想が、その後あまり広がっていないように見えるのは惜しい。
ラテンアメリカ等と比較して、日本という島国が「離脱がない」ことによって利益を得た、というのはちょっと面白い。離脱できないことが、「妥協という美徳」を教え込んだ、というのである。
離脱・発言・忠誠―企業・組織・国家における衰退への反応 (MINERVA人文・社会科学叢書)