現代文学論争

小谷野敦氏の新刊。
ところどころには小谷野氏の主観的な感想も含まれてはいるが、全体としては客観的な論争の推移を丹念に追っていて非常に興味深い内容となっている。
例えば第六章の『事故のてんまつ』事件。『事故のてんまつ』というのは、川端康成の死の「真相」を書いた臼井吉見の著作だが、これが本当に真相なのか、そして、川端家(未亡人や、養子の川端香緒里東大教授)が採った態度などが明かされる。文学者等の遺族は、果たして死者の名誉を守るために、言論を統制することが許されるのか、考えさせられる。これは川端だけの問題ではないのだ。
純文学と通俗文学の区別についても、第十六章「「純文学」論争」を中心に、随所で問題となっている。これについては、著者の積極的な見解をもっと聞いてみたいところだ。村上春樹を通俗文学として批判(罵倒?)している個所があるが、その理由は何なのだろうか。純文学の必要十分条件とは何だろう。
現代文学論争 (筑摩選書)