NHK 鉄の沈黙はだれのためか

2001年にNHK教育テレビで放送された番組「問われる戦時性暴力」は、その番組内容の改変に向けての政治家の圧力があったのかどうか、その意思決定の過程が、放送番組の政治的中立性や表現の自由、番組制作を下請けしたプロダクションとの関係、「期待権」や「編集権」の問題など、さまざまな議論を呼んだ。著者はその当事者の一人で、内部告発をした長井暁氏の上司に当たる。著者は自分が組織内での地位防衛のために姑息に立ち回ったことまで、かなり正直に書いている。中川昭一氏や、伊藤律子氏(事件当時番組制作局長)が亡くなり、著者自身もNHKを離れて大学教授に転身したことで、当時のことを正確に記録しておくべきという使命感が生まれたようだ。
もちろん著者も、すべてを知る立場にはないから、推定や憶測なども含まれているが、中川昭一安倍晋三が巧妙な言い方でたくみに圧力をかけたこと、そして、番組改変はおそらく海老沢会長自身が指示をしたことなどが書かれている。
この事件は、放送における政治的中立性や編集権の問題、NHKという組織のあり方など、放送の未来を考える上で重要な論点を多数含んでいる。残った当事者の一人である松尾武氏(当時放送総局長)などは、NHKを辞めてもまだ沈黙を守って逃げ続けている。何を恐れているのだろうか。死ぬ前に知っていることを明らかにして欲しいものだ。
NHK、鉄の沈黙はだれのために―番組改変事件10年目の告白