メモワール 写真家 古屋誠一との二〇年

実は私は、古屋誠一氏の写真集自体は読んでいないのだが、確か東京都現代美術館で行われていた展示は見たことがある。それも、もう詳細は覚えていないのだけれど、オーストリア人の奥さんの写真が中心で、展示を見るうちに、彼女が自殺したことが分かるというショッキングな構成だった。そして、古屋氏がどのような気持ちでこのような写真を公開しているのか、その時に気にはなったけれど、特に深く追究する気はもちろんなかった。
本書の著者の小林紀晴氏は、自らも写真家だが、そのような疑問を深く追究し、そのままオーストリアに住んでいる古屋氏と何度も会って話をし(もっとも、会見の場所はオーストリアに限らず、日本や米国だったりするが)、自殺した奥さんの写真を写真集や展示で発表し続けるのは何故なのか、秘密を解き明かそうとする。
本書では奥さんが当初から精神を病んでいたこと(結婚前にも自殺未遂はしている)、入退院を繰り返していたこと、奥さんが残していたドイツ語の手記のごく一部も掲載され、より深く古屋夫婦のありさまを知れるようになっている。ただ、途中で登場する写真評論家の飯沢耕太郎も指摘するように、他人にとってはあまりにも重い事実でもあり、それを写真集などで発表し続けることには、「つきあいきれない」と思う人も多いであろうとも思う。
古屋氏に、自殺の責任がないとも言えない。収入がほとんどない時期もあり、その時期は奥さんが放送局でアルバイトをしていたのだが、それは奥さんにとっては意に沿わない仕事であり、そんな時期にも古屋氏は飲み歩いていた。また、飛び降り直後の奥さんの写真を、わざわざカメラを取ってきて撮影したことも、倫理的にどうなのかと思う人もいるだろう。
そうした疑問にもちろん、本書はきれいな答えを出すものではない。唯一の救いは、反抗を繰り返した息子の光明氏がすっかり成長して、エンジニアとしてオーストリアで真っ当に育ったことだろうか。