「東洋の魔女」論

『商店街はなぜ滅びるか』の新雅史氏が、東京オリンピックのバレーボールで日本中を熱狂させた「東洋の魔女」を論じる。私の世代では辛うじて耳にしたことがあるが、現在の若者の多くはたぶん「東洋の魔女」と言っても分からないのではないか(スポーツマニアを除く)。
 第一部は「レクリエーション」論。「厚生」がレクリエーションの訳語だったというのは私は知らなかった。労働者の福利厚生を図るため、スポーツなどが奨励された。
 第二部は「東洋の魔女」がいかに生まれたのかを説明する。戦前、長時間労働などキツイ仕事の代名詞だった繊維産業が、工員たちの健康維持やイメージアップのため、社内にバレーボールチームを作るようになる。当初は、勝ち負けよりレクリエーションだったのが、例えば高校生との試合で「(中卒の)女工に負けたら恥よ」との声援で発奮するなど、ある意味で悲しい、いじましいエピソードも含まれている。後半は、「鬼の大松」こと大松博文監督の著作に大きく依存している。通常勤務の後に長時間の練習、生理休暇も取らせないなど、現在なら「虐待」と言われても不思議ではないが、女工たちは耐え抜いて金メダルをつかみ、その後結婚していった。それが「ママさんバレー」へとつながってゆくそうだ。