なめらかな社会とその敵

東大の特任研究員を務める鈴木健氏の著作。随分とありふれた名前だが、本の内容はありふれていない。味方と敵、内部と外部を峻別するような社会から、内部と外部がゆるやかに連接するような社会を提唱する。情報技術の利用でそれが可能になるとする点からすれば、「情報社会論」の一種でもある。
具体的に鈴木氏が提唱するのは、まずは伝播投資貨幣PICSY」である。財やサービスの売買について、買った方から売った方への価値の評価とみなし、そのN×N行列から固有値を求めることで、各人の社会への貢献度が計算される。グーグルのページランクとも似た手法だ。
また、投票において投票先を分割できる「分人民主主義」が提案される。人に投票を委任可能な「伝播委任投票システム」を入れても、情報技術を使えば、そうした複雑な投票の結果も算出可能であるのだ。
そして、「なめらかな社会の敵」として本書で名指しされているのは、とうぜん、「
味方」と「敵」とを峻別することが政治であるとして大きな影響力を持った、カール・シュミットということになる。鈴木はこの「敵」を取り込むことができたのか、それは本書を読んで確かめられたい。
なめらかな社会とその敵