思想地図β3号 日本2.0

私はこの「2.0」という表記があまり好きではないが、本書はそれなりに充実していて読み応えがあった。但し、やたらと厚すぎ、重すぎる。以前にNHK出版から出されていた程度のボリュームにして欲しい。
特に有益に感じられたのは、「憲法2.0」「列島改造論2.0」「ジャーナリズムと未来」「勝機はインド以西にあり」。「憲法2.0」は、各所で既に話題となっている、憲法改正試案。憲法改正というと、9条の問題ばかりに焦点が当たる傾向があったが、この試案は、全体の枠組み自体を考え直すものだ。特に、住民と国民の分離や、それに対応した「住民院」と「国民院」という2院制の議論には、大いに刺激された。「国民院」の被選挙権に、何らかの資格制度を導入するという考えには疑問。東大法学部を優秀な成績で出て国家1種に受かっても、政治家という仕事に適正を欠いている人は何人もいる。また、「総理」について、大統領制に近い権限となっている。
「列島改造論2.0」も内容豊富な論攷だが、福島第一原発から西南方向に直線を引くと、熊谷、浜松(移民)、沖縄(基地)といった地域が線上に乗ってくるというのが冒頭のモチーフ。これを「問いの軸」と命名している。JRの分割に倣って6つの日本を創るというのも興味深いが、四国が弱すぎないだろうか。
「ジャーナリズムと未来」は、中国人ブロガーの安替と東浩紀津田大介の鼎談だが、中国の現在のジャーナリズムにおいて、記者個人の力が組織より強いという形になっているという発言が気になる。
「勝機はインド以西にあり」というのは、ジャーナリスト常岡浩介による論考だが、イスラム圏において日本がまだ「好かれて」おり、これを外交に利用しようという主張はその通りだろう。
逆に、東と梅原猛の対談や、高橋源一郎の珍妙な小説などは、読む価値がない。市川真人の文学論も、結局何も得るところがなかった。伊藤剛のマンガ論は長編で力作だけれど、ここに載っている必要はあるのだろうか。独立した単行本で論ずべきことではないだろうか。
日本2.0 思想地図β vol.3