北の無人駅から

無人駅」とタイトルに入っており、確かに各章ごとに北海道の無人駅の話から始まる(小幌、茅沼、新十津川、北浜、増毛、奥白滝)のだが、テーマは鉄道よりもむしろ、その土地に住む人々の生活まるごと、と言ってよい。小幌は特に秘境駅として有名だが、そこにどんな人々が暮らしていたのか、まさに驚きの連続だった。小幌駅から下りた浜辺に住んでいたのは、基本的には漁師たちだが、中でも、アイヌ系の故・陶文太郎さんの話はすごい。2度の鉄道事故(酔っ払って線路で寝てしまった、など)で、片足づつ、両足ともなくしながらも、めげるどころか、たくましい両手を使って歩き、漁をし、子供たちを抱えながらひとかどの財産まで作った。ほか、茅沼では環境保護が、新十津川では複雑な農政が、増毛では国道開通前には「陸の孤島」と言われていた「雄冬集落」での生活(かつてはここもニシン漁でにぎわった)などが主テーマ。かつて、増毛の方が留萌市より栄えていたのが、鉄道誘致で留萌に敗れて衰退したことなど、知らなかった。
私の専門から最も興味深かったのは、第七章。旧白滝村は、鉄道ファンには秘境駅の連続(白滝シリーズ)で有名だが、その村政は、激しい村長選挙の連続だった。具体的には、積極財政派と消極財政派の争いであり、そこに合併の是非まで加わった。結局白滝村は、遠軽町と合併することになる。大盤振る舞いの村長時代に作られたケーブルテレビ「白滝ふるさとテレビ」を取材に行きたい。
北の無人駅から

参考文献に挙がっている、橋本克彦『線路工手の唄が聞こえた』(文春文庫)、同『農が壊れる』(講談社)、小池喜孝『縄紋トンネル』(朝日文庫)などもおもしろそうですね。