雇用の常識「本当に見えるウソ」

雇用・労働関係で、世間にはびこる通念を、統計数値を基に覆して行く痛快な書物。特に「終身雇用は崩壊していない」「転職は一般化していない」「派遣社員の増加は正社員のリプレイスが原因ではない」といった命題が説得的に論じられている。男子学生の就職率が多少悪化しているのは、女子学生の増加によって押し出された結果だというのも、納得の行く論証であった。引きこもりが増加したように見える原因が、家族経営の減少が主因だという推論も興味深い。70年代末まで、農業プラス家族経営で、就業者の約5割を占めていたというのも、われわれが忘れてしまった事実だ。「所得200万円以下」層の大半が、主婦や学生だというのも、見落とし勝ちなところである。
だが、熟年叩きを戒めるとして、現在の年配者が高給なのは若年の時に薄給だったから、という主張には疑問がある。「若者がかわいそう」という議論の多くは、年代コーホート別での賃金格差を問題にしていると思うのだが、そうした年代コーホートによる議論は本書にはまったくない。その点で、熟年層に媚びているように感じる。
雇用の常識「本当に見えるウソ」