鳩山一族 その金脈と血脈

佐野眞一氏による著作。佐野氏の本は、よく調べられていることが多いが、時に脇道に入り込んだり、偏った見方が露呈することもある。本書においてはそれは、第五章「保守合同保全経済会事件」に現われている。この章はほとんどが、「伊藤斗福」という人物の紹介に当てられている。この人物と鳩山家の接点は、ただ資金提供をしたことがあるという一点だけである。朝鮮生まれで、セールスマンとしての頭角を表した伊藤は、「保全経済会」という組織を作り、庶民から広く出資を募って株投資などを行うが、1953年の株価の暴落によって経営は破綻、詐欺として逮捕された人物だ。伊藤が初めから詐欺をするつもりだったのか、それとも純粋に庶民を儲けさせようとして失敗しただけなのか、今となっては(誰にも)分からないが、なぜか佐野は伊藤を贔屓し、鳩山家の人々とは違って庶民の心が分かる人物だと持ち上げるのだ。伊藤の息子を探し当ててインタヴューするのはいいのだが、その凡庸な発言を「胸に響いた」というのは、まさに贔屓の引き倒しだろう。
話がそれてしまった。他の章はもちろん、鳩山家4代の人々の紹介に当てられているのだが、「一郎」と「秀夫」という「愚兄賢弟」というパターンを「由紀夫」と「邦夫」に当てはめようとするなど、強引な決めつけが目立つ。総じて鳩山家の人々への点が辛い。確かに、鳩山一郎が北海道で地主だった時代、小作者たちに対してひどい扱いをするなど、傲慢なところは多く、また、意外なほど女性問題を起こしている(一郎のみならず、威一郎や由紀夫にも女性問題があった)のだが、もう少し冷静な書き方ができないものか。秀才の誉れ高かった鳩山秀夫がアルコール中毒になっていたことも、私は知らなかった。
現在起きている母親からの献金などの批判を避けるために、鳩山家はもはや、財産の大半を国庫に寄贈したらよいのではないかと私は考える。裸一貫から出直せばよい。
鳩山一族 その金脈と血脈 (文春新書)