憂い顔の『星の王子さま』

星の王子さま」の版権が数年前に切れて、それまで内藤濯訳(岩波書店)の独占状態だったものが、多数の新訳が出た。本書は、内藤濯の「誤訳」を詳細に批判するものだが、それだけではなく、新訳13種(および英訳3種)の当該個所も比較検討を行っている。
一読、フランス語の学習にはかなり役立つ。だが、完全な誤訳と言えるのは挙げられた個所の2−3割程度だとも思う。あとは、細かなニュアンスの違いであったり、気に入らない言葉の挙げ足取りをしている。著者は、キーワードについては一つの訳語で通すべき、という信念の持ち主のようだが、この信念自体、正しいとは限らない。
版元の書肆心水は、良心的な本作りで知られる。だがこの本は、ちょっと下品な気がする。翻訳は常に、岡目八目だから、あまり口汚くののしるのはどうかと思う。
憂い顔の『星の王子さま』―続出誤訳のケーススタディと翻訳者のメチエ