新年最初の取材は群馬県。地域情報化政策の取材で高崎市役所、前橋市役所、太田市役所、館林市役所に行く。昼食は前橋市役所12階の展望ホールで。雪をかぶった赤城山(たぶん)が美しい。群馬と新潟の県境は、『雪国』で「国境」と言われただけのことはある。関東平野と、山の向こうとは、確かに別世界でしょう。


 高崎市は昭和59年度にニューメディア・コミュニティのモデル地域となり、「卸団地型」情報システムが計画された。具体的なシステムとしては、事務処理オンライン、受発注オンライン、文書・画像情報、映像情報、その他のサービス(共同駐車場管理など)、卸団地情報交換の各システムとインフラである。計画は昭和63年までの第1期、昭和67(平成3)までの第2期、昭和68(平成4)以降の第3期に分かれ、第1期のシステム構築費用は8億4000万、維持費は年9400万と試算されていた。平成13年12月に「電子自治体たかさき」推進実施計画が策定されたが、これはタイトルからも分かるように、行政情報化に重点を置いた計画であって、地域情報化に関して書かれている部分はほとんどない。平成9年には、コミュニティFMの「ラジオ高崎」が開局。また、高崎駅近くのラ・メルセの3階には、地域情報化拠点施設として「たかさきITプラザ」が建設されている。パソコン13台を備えたメインルーム、やや高度なソフトをそろえたパソコン6台を備えたサブルーム、会議室、インターネット専用コーナーなどからなる。


 前橋市は国の地域情報化政策としては、テレトピア構想とマルチメディア・モデル・キャンパスの指定を受けている。テレトピア構想(1986)では、プライベートキャプテンの構築(商業振興システム、社会教育関係情報システム、農業振興システム)が中心事業とされ、その後にCATVの普及を図るとされた。だが実際には、キャプテンを扱う第3セクターは設立されず、結果として傷が小さくて済んだ事例と言える。CATVは民間の事業者が参入している。TAO(衛星・通信機構)が中心で行ったマルチメディア・モデル・キャンパス(1998)は、前橋工科大学での遠隔学習、eラーニング実験を、市が後援したという形である。市独自計画としては、平成9年度に「前橋市行政情報化計画」を策定、そして平成15年度〜19年度を期間として「前橋市総合情報化推進計画」が策定された。後者の基本理念は「情報のひびきあうまち まえばし」である。「住民ニーズにかなったサービスの提供」「地域活力の醸成によるにぎわいのある地域社会の構築」「ITを活用した積極的な行政への参加・協働」「行政事務プロセス改革による戦略的行政経営の実現」の4つを基本方針とするが、具体策はあまり書かれていない。地域活性化のために、GISの活用を計画しているが、行政内部のGIS利用もデータが統一されていない段階であり、未だ道は遠い。


 太田市はエレクトロニクスや自動車などで知られる工業都市である。現市長の清水聖義氏は改革派として知られ、当選時24階で計画されていた新市庁舎を12階に縮小、また、自治体として初めてISO9000、ISO14000を取得した。2005年4月からは、小中学校の主要科目を少数化し「20人学級」とするなどの試みも行っている。国の地域情報化政策としては、旧建設省のインテリジェント・シティ構想(1987)および、旧郵政省の自治体ネットワーク施設整備事業(1996)のモデル指定を受けた。前者は、東武太田駅北口にインテリジェントビルを建てる計画だったが、実際には実行されていない。後者は、市内大型店内および公民館等での各種証明証の発行・届出業務、生涯学習システムの提供などが内容となっており、新庁舎建て替えの際に、その2階に情報センターとして実現した。独自の施策として、太田まるごとITタウン基本構想がある。市内全域をADSLで結んで、地域密着型ITサービスを低料金で提供する構想。第三セクターの「ブロードバンドシティ太田」(BBCO)を平成13年4月に設立。資本金は2億3千万円で、市の出資比率は11%程度。三洋電機や両毛システムズなどが多額の出資を行っている。設立当初は、むしろコンテンツビジネスをという要望であったが、まずはインフラ整備からということで、ADSLが主事業となった。宇都宮市で事業展開を行っていた「ライトネット」(既に倒産)の経営者からの話もきっかけになった。CATVを整備したいという話もあったが、難視聴地域が少なく利用者が見込めない上、全市にCATV網を敷設すると100億近い費用がかかる、また、東京電力の高圧送電線による難視聴地域には既に、単方向の単純な共聴アンテナが立っているなどの理由から、見送りとなった。平成14年4月から「太田市における電子自治体実現を目指す先進的情報通信システム及び整備事業」が行われ、電子投票や電子アンケート、防災情報通報サービスなどが整備されている。BBCOは、設立後コンテンツビジネスにもいくつか乗り出したが、例えば病院予約システムについて医師会の協力が得られない(ネット予約者が割り込んでいいのか、割増料金を取るのか、といった、制度面がはっきりしないため、利用者が増えない)など、キラーコンテンツ不足という課題も抱えている。本業のADSL事業にしても、ヤフーが進出してライバルとなる、光ファイバーの普及も始まるといった形で、平成16年度までは黒字だが、先行きに不安材料も灯っている。合併して市域が広がったが、「太田まるごとITタウン構想」としては、新市の全範囲までは、第三セクターとは言え基本的には民間事業であるから、家費用対効果からまず広がらない。コミュニティFMの「おおたコミュニティ放送」(FM太郎)にも、市は多少の出資と、行政番組の提供を行っている。これはもともと防災無線として整備されたもので、災害の際には放送を中断して情報を流す仕組みとなっている。


 館林市田山花袋や、最近では宇宙飛行士の向井千秋氏などを輩出した、美しい観光都市の一つである。国の地域情報化政策としては農水省のグリーントピア構想のモデル都市指定を受けた。整備されたメディアはパソコン通信である。最盛期に約200人の利用者が、主としてワープロを使って利用していた。その後は目立った政策展開はなく、地域情報化計画も策定されたことはない。