大卒就職の社会学

まえがきによれば、「1980年代末から2000年代初頭の大卒就職の変容過程を、データに基づいて客観的に描き出す」ことを目的とした著作。単著ではなく、「就職研」という研究会の人々がテーマ毎に各1章づつ、全8章で構成されている。論文集は一般に玉石混淆になりやすいけれど、本書に収められた各論文は、データを基にしているためかさほど質の低いものは含まれておらず、その点では信頼がおける。
例えば3章では、就職の内定の出る時期が、時期ごと、そしてA,B,C3群に分けた大学のランクごとにどのように変遷しているのかがデータで示されているが、それを見ると、いわゆる就職活動の時期が、明らかに長期化していることが分かる。それも、B群、C群については、異様に長期化した。これでは学生たちが就職活動で疲弊するわけである。
第8章は「なぜ企業の採用基準は不明確になるのか」と題して、ここでは量的な調査よりむしろ、主として企業側の言い分が紹介されている。私のような大学人からすると「勝手なことを言っているな」と思う。マニュアル通りの答えでなく、本音を知りたいということのようだが、学生の内面にまで踏み込まないでもらいたい。こうした「キツネとタヌキの化かしあい」は、両者のコストを上げるだけだ。なんとかして、客観的に測定された能力だけで、かつ低いコストで、就職のマッチングを行えないものか。大学教育の評価を外部化するというのが私の答えだが、実現にはさまざまな障壁があるだろう。
大卒就職の社会学―データからみる変化

第二の手、または引用の作業

日本でも『近代芸術の五つのパラドックス』などで知られるアントワーヌ・コンパニョンの博士論文にしてデビュー作。邦訳で600ページを超える浩瀚な「引用論」。二十代でこの学識は驚異的だ。全体は6部構成で、「引用の現象学」「引用の記号学」「引用の系譜学1」「同2」「同3」「引用の奇形学」となる。「系譜学」が分量的にも中心で、1はプラトンアリストテレスを論じた古代、2はキリスト教神学を扱った中世、3はラムスやモンテーニュを論じた近代となるが、アレゴリーシニフィアンシニフィエとの間に安定した関係がある)からエンブレム(安定した関係がない)へという変化や、印刷革命の影響についても触れられている。そしてこの両者は、「印刷者の商標」において結びついている。印刷術の発展の影響を識別していないという点で、フーコー『言葉と物』を批判しているのも注目に値する。
巻末には、引用および盗作を主題とした短編小説「この尻尾はこの猫のものではない」が付されていて面白い。
第二の手、または引用の作業 (言語の政治)