物語の哲学

哲学者・野家啓一氏による物語論。物語行為論から歴史・時間論、科学論へとつながる、射程の広い著作。歴史も、科学も、畢竟は物語であるとの立場に立つ。数日前読んだ「南島イデオロギーの誕生」では厳しく批判されていた柳田国男も、肯定的に引用している。
物語の哲学 (岩波現代文庫)

新南島風土記

沖縄タイムズ社の記者として、石垣島に赴任した著者が、八重山諸島を回ってまとめたものだが、新聞連載時期は1964−65年で、実は四十年以上も前に書かれており、既に歴史的書物と言った方がよいだろう。交通事情なども大きく変わっており、著者も既に定年して久しい。
どちらかと言えば、琉球支配に苦しめられた歴史に焦点が当てられている。1622年のキリシタン焚殺という事件は知らなかった。八重山の頭職であった宮良親雲上が、同僚の告発で、キリシタンになったとして焚殺されたのだが、薩摩が沖縄にキリシタン禁令を出した14年も前のことで、この事件はいまだに謎が多い。同僚の嫉妬や、首里王府と薩摩との関係など、複雑な政治状況が生み出したものとされる。
小浜島で、島外に語ってはならないとされるアカマタ祭祀を調べようとした学者が、島の人々に排除される件も、興味深くまた恐ろしい。結局この学者は、取材後一年で死んでしまい、島人たちは呪いとして納得する。今でも秘密が保たれているのだろうか。
新南島風土記 (朝日文庫)