格差社会論はウソである

格差社会論」云々というタイトルだけれど、主題はむしろ日本社会礼賛、日本型経営礼賛にあると言ってよい。まだまだ平等化への圧力の強い日本が様々な面で優れていると主張している。
論点は多岐にわたるけれど、印象の強い点をいくつか挙げる。
まず地方振興策に冷水を浴びせる。地方から都会に人口移動した方が、両者とも労働生産性が上がるとするのだ。人口密度が低い都道府県では人口が減った方が、そして人口密度が高い都道府県では人口が増えた方が労働生産性が上がることを実証している。両者を分けるメルクマールは、人口密度1000人で、後者に属するのは東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪、福岡の7都府県だけ。農業や製造業主体の県では余剰労働力を吸収できず、逆に人口密度の高い県ではサービス業が労働力を吸収可能なためという。言われてみればなるほどと思う。著者によれば田中角栄の「日本列島改造」などは、愚劣の極みということであるようだ。
教育についても大胆な主張がなされている。日本の子供が自信を失っているのは、例えばアメリカのような根拠なき自信にあふれている国よりも、はるかに好ましいと言う(やや贔屓の引き倒しのようだが)。1972年の富山県の事例は、河本敏浩『誰がバカを作るのか』からの引用だけれど、本田由紀氏のような職業教育重視派に、是非読んでもらいたい。普通科の高校生が全国で6割の1972年に、富山県では普通科の定員を3割にしぼり、残りを職業科高校に割り振った。そのため、普通科に行きたかったのに職業科に回された高校生たちが暴れる結果になったのである。日本において、エリートと労働者を早期に選抜しようとすると何が起こるかという歴史の教訓である。
戦略を立てるとダメになる、という発想も面白い。日本企業の強さは、米企業のように明確な戦略を立てないところにあるというのだ。大学院時代の恩師が「国家IT戦略」に関わっているので複雑な思いだが・・・
格差社会論はウソである

社会イノベータ

佐賀の企業家養成NPOである鳳雛塾を立ち上げ、現在は慶應の教員をしている飯盛義徳氏がまとめた、地域情報化に関するケース・メソッド。鳳雛塾のほか、富山のインターネット市民塾、桐生の桐生情報ネットワーク(渡良瀬ネットから発展)、高知県大方町の砂浜美術館、福岡県東峰村東峰村元気プロジェクトが取り上げられているが、中でも興味深いのは最後者。小石原村宝珠山村が合併して、やはり村となった人口2600人ほどの自治体だが、そこへ飯盛氏やゼミ生が赴き、住民ディレクター、鳳雛塾、市民塾の3つのプロジェクトを立ち上げ、地域SNSも導入した。行政も2008年3月、公設民営によってブロードバンド化を達成(福岡県市町村合併推進特例交付金3200万円を使う)。これだけ手厚い支援を受けた東峰村が今後どうなるか、興味津々である。
http://toho-sns.jp/
http://sonminjuku.com/
社会イノベータ (ケース・ブック)