理髪店にて

[ショートショート]理髪店にて

 

一か月ぶりくらいに近所の理髪店に行った。家族経営の店ではなく、若い衆を何人も使った、椅子も五脚ある比較的大きな店である。

 髪を切ってもらう間、私は黙って目を閉じ、瞑想に耽っているのが常だが、左の方の客と理髪師はもともと友人同士らしく、大きな声で盛んに話をしていた。どちらも30歳くらいか。退屈なので聞くともなしに話を聞いていた。

店員「〇〇くん、結婚したんだね。キレイな奥さんと」

客「あ、あの娘とボクは付き合ってたんですよ」

「え、そうなの?」

「そうなんですよ、僕、捕まったじゃないですか」

「そうだったね」

「あの娘への暴力で捕まったんですよ。それでその間に、○○の奴とできて、結婚したんですよ」

「へー」

 あまりにヘビーな話に、聞いているこちらもどん引きである。

 ほどなくその客は終わって帰って行った。さて、右の方では、小学校低学年くらいの男の子が、四十くらいの店員に散髪してもらっている。

店員「坊やはゴールデンウィークはどこかに行くの?」

小学生「××リゾートに行きます」

「そうなんだ、いいね。うちは休みがないからね」

 こういった他愛もない会話が続いていたが、

「おじさんは、二十年くらい前はね、ソバ屋で働いてたんだよ」

「そうなんですか」

「今この床屋では『いらっしゃいませ』って言うけど、ソバ屋では『いら』は言わないで、『シャイマセ』だけしか言わなかったね」

「そうなんですね。おソバ屋さんの後は何してたんですか」

「ちょっと人を殺しちゃって、刑務所に入ってたんだよ」

 お前もか・・・