風土記の世界

残念ながら原文の多くが失われ、5か国分しか残っていない風土記。しかしその残った部分からでも分かることは多い。「日本書」の紀としての日本書紀、「日本書」地理誌になろうとしてなれなかった風土記古事記はこの二書とははるかに性質が違う書だというのが、著者の見立てである。
第3章で常陸国風土記を、第4章で出雲国風土記を扱っているのだが、特に第4章において、出雲国と「コシ」(高志、あるいは越)の国とのライバル関係が見えるところがたいへん興味深い。「出雲にとって高志の地は、つねに念頭から離れない異界として存在する。それは、にっくき敵対者であるとともに、ある種のあこがれを秘めた土地として高志が存在するからである」(p.149)。