風土記の世界

残念ながら原文の多くが失われ、5か国分しか残っていない風土記。しかしその残った部分からでも分かることは多い。「日本書」の紀としての日本書紀、「日本書」地理誌になろうとしてなれなかった風土記古事記はこの二書とははるかに性質が違う書だというのが、著者の見立てである。
第3章で常陸国風土記を、第4章で出雲国風土記を扱っているのだが、特に第4章において、出雲国と「コシ」(高志、あるいは越)の国とのライバル関係が見えるところがたいへん興味深い。「出雲にとって高志の地は、つねに念頭から離れない異界として存在する。それは、にっくき敵対者であるとともに、ある種のあこがれを秘めた土地として高志が存在するからである」(p.149)。

地形で謎解き 「東海道本線」の秘密

著者は中公新書から、「東京歴史散歩」シリーズを何冊も出しているが、本書のテーマは東海道本線。なぜ現在の径路を取るにいたったのか、東京から神戸までの旅程に沿って興味深い話が展開する。まだ東海道本線が御殿場回りだったころ、急こう配が控える山北駅には700人以上の鉄道員が働いていたといった、驚くべき事実が書かれている。ちなみに山北町という長名も、駅名からとられたものという(元は川村。山北は駅周辺の小字)。

美術館の舞台裏

著者は三菱一号館初代館長。タイトル通り、表からはなかなか窺い知ることのできない美術館経営の裏側が書かれている。けっこう贋作があったり、また、運搬の途中で壊れたり、保管に失敗して汚れたり、いい加減な修復をしたり、そんな事例にびっくりする。