表現の自由

授業準備のためもあり、「表現の自由」関係の著作をまとめ読み。
田島他『表現の自由とプライバシー』はこの両者の価値秤量を中心とする論文集だが、論者によって重点の置き方が違っていておもしろい。村上『人格権侵害と言論・表現の自由』は、言論・表現による人格権侵害が争われた裁判を、刑事・民事に分け、原告と被告のどちらが勝ったのか、網羅的に定量分析しているところに特徴がある。松井『マス・メディアと表現の自由』は、立法府によるメディア規制に警鐘を鳴らし、マス・メディアの役割をもう一度大切に考えようとしている。かつての「メディア規制3法案」だけでなく、守秘義務の課せられる裁判員制度も、メディアに対する脅威と考える視点はユニークだ。最も大部の市川『表現の自由の法理』は、戦後日本の憲法界で支配的学説だった芦部憲法学の、「二重の基準」学説の批判に主眼が置かれている。「二重の基準」とは、表現の内容に関する規制と、表現中立的な規制(中身に立ち入るのではない規制、たとえば、選挙の際の戸別訪問の禁止といった外形的規制)とで、表現の自由の基準に差を設けるというもので、前者については規制を厳しく排し、後者については公共の福祉などによる規制もかなりの程度認められるとするものだが、市川は、この「二重の規制」という区別は曖昧であり、「表現中立的な規制」とされるものでも、行政側に乱用される危険が大きいとする。松井も「二重の基準」論者のため、市川の批判の俎上に乗っている。ただ、市川の書は全体として、あまりにも瑣末な論点にこだわり過ぎのように、私には思える。
表現の自由の法理
マス・メディアの表現の自由
人格権侵害と言論・表現の自由
表現の自由とプライバシー―憲法・民法・訴訟実務の総合的研究