漢和辞典を買った

最近、新しく出た漢和辞典を2冊買ってしまいました。
一冊は、新潮の『新潮日本語漢和辞典』。日本語の表記に重点を置いたとのことで、国字や、熟字訓などが豊富に入っています。親字数は15475字。字源については白川説を基本としています。

もう一つは、「類書中最大の情報」として親字数約17000字を収録した学研の『漢字源』。藤堂明保氏(故人)が編纂した「学研漢和大辞典」を基にし、JISの第4水準までと補助漢字はすべて収録、ユニコードもついてます。

ちなみに、それまで使っていた漢和辞典は、家では大修館の『漢語林』、大学の研究室では白川静『字統』と岩波の『新漢語辞典』です。もちろん、これからも併用します。

学生時代から私は漢字好きで、実家にも、このレベルの中辞典が、6冊ごろごろ転がっています。つい新しいものが出ると欲しくなるのですよ。

私が中高生のころ、字源説といえば、藤堂明保の『漢字語源事典』と加藤常賢の『漢字の起源』が双璧で、白川静の説が脚光を浴びだしたのは、その後のことだと記憶しています。本当はこの2冊を買いたかったのですが、結局買ったのはまず、加藤常賢の弟子筋にあたる山田勝美の『漢字の語源』、そして『当用漢字字源辞典』の2冊でした。いずれも角川で、前者は1400円くらい、後者は2000円くらいだったと記憶しています。藤堂・加藤の本は、1万円以上したんではないでしょうか。浪人時代、駿台山田勝美翁が漢文の教師として出講してきた時には、ちょっと感動したものです。小遣い稼ぎでしょうか。加藤常賢は、白川静を東大の授業で罵倒したとWikipediaに書いてますが、本当かどうか。

字源において「説文解字」を重視する加藤常賢のラインはその後、山田勝美氏、進藤英幸氏らによって引き継がれます。人脈的には関係ないと思いますが、いま盛んに字源に関する著作を出している一人である、京大の阿辻哲次氏なども、読むと説文解字派ですね。藤堂明保氏は音韻論が中心で、古代中国の音韻を推定し、それをもとに「漢字の家族」つまり、つながりのつよい漢字を推定している。これは加納喜光氏などに受け継がれます。そして言うまでもないことですが、いま最も人気がある字源説はやはり白川静説で、独自の方法で甲骨文などを読み解き、説文解字を批判的に検証した。代表的な業績が、いわゆる「サイの発見」になります。すなわち、漢字の部分で「口」(くち)とされるものの多くが、口ではなく、祭祀に使う器で、現在の「才(サイ)」であろうと。ロマンがある反面、トンデモだと言う人もいますね。

本当に欲しいのは、やはり諸橋の「大漢和」。しかし、全15巻で置き場所に困る上に、さまざまな間違いがあることも知られている(たとえばhttp://hp.vector.co.jp/authors/VA000964/html/daikanwa.htmを参照)。これは諸橋に限ったことではなく、多くの漢字を収載した漢和辞典にあてはまることですが、過去の地方の異体字など、もともと楷書で書かれたことのなかった字を、現代の漢和辞典ではむりやり楷書にして活字化している(したがって、これまで存在したことのない字が発生している)こともあり、どこまで字体の同一性を認めるのか難しい。できれば、コンピュータを駆使して、こうした間違いを校訂した改正版が出てから買いたい。そして定年後にゆっくりと通読したいものです。

新潮日本語漢字辞典
漢字源

理由

宮部みゆき原作、大林宣彦監督。私は宮部みゆきは「読まず嫌い」で、一冊しか読んだことがない。映画の出来は、かなりよかった。だが、最後の「殺人事件がむすぶきずな」という変な歌は興醒め。幽霊の話もあらずもがなで、その辺りは減点対象。

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